親愛なる映画ファンの皆様、こんにちは。歴史映画ソムリエのマルセルです。
今回ご紹介するのは、シェイクスピアの名作悲劇を映画化し、「史上最高のハムレット」と称される
ローレンス・オリヴィエ監督・主演の『ハムレット』(1948)です。
本作は、シェイクスピア劇の映像化において金字塔を打ち立てた作品であり、
イギリス映画として史上初めてアカデミー賞作品賞を受賞した名作でもあります。
ローレンス・オリヴィエは、主人公ハムレット役としても出演し、
その緻密な演技と映像美によって、デンマーク王子の苦悩と狂気を見事に表現しました。
物語の舞台は、中世デンマークの王宮エルシノア城。
父王を殺されたハムレットは、亡霊の訴えを聞き、叔父であり現王のクローディアスに復讐を誓います。
しかし、優柔不断な性格が彼を苦しめ、「To be, or not to be」の名台詞に象徴される哲学的な問いに翻弄されることになります。
本作は、シェイクスピアの原作の持つ心理的な葛藤を映像美と演出の工夫によって深化させた映画であり、
その大胆なカットと詩的なモノクロ映像は、まるで熟成されたボルドーワインのように濃密で芳醇な味わいをもたらします。
それでは、次章では本作の基本情報を詳しくご紹介しましょう。
作品基本情報
項目 | 情報 |
---|---|
タイトル | ハムレット |
原題 | Hamlet |
製作年 | 1948年 |
製作国 | イギリス |
監督 | ローレンス・オリヴィエ |
主要キャスト | ローレンス・オリヴィエ、ジーン・シモンズ、ベイジル・シドニー、アイリーン・ハーリー、フェリックス・エイルマー |
ジャンル | ドラマ、悲劇 |
上映時間 | 153分(2時間33分) |
評価 | IMDb:7.6/10、Rotten Tomatoes: 96% |
受賞歴 | アカデミー賞4部門受賞(作品賞、主演男優賞、衣装デザイン賞、美術賞) |
物語の魅力
① シェイクスピア悲劇の映像化としての完成度
- 本作は、映画という媒体でシェイクスピア劇をいかに表現できるかを証明した作品。
- ローレンス・オリヴィエの演出は、舞台劇の要素を生かしつつ、映画ならではのダイナミックなカメラワークを駆使している。
- 心理的な葛藤を強調するクローズアップや光と影のコントラストが、登場人物の内面を映し出す。
② ローレンス・オリヴィエの演技と演出
- 彼は監督・主演を兼任し、ハムレットの苦悩と優柔不断さを見事に表現。
- 特に「To be, or not to be」の独白シーンは、映画史に残る名演技として高く評価されている。
③ 映像美と美術のこだわり
- モノクロ映像を最大限に活かしたゴシック調の美術と陰影表現が、作品の幻想的な雰囲気を引き立てる。
- エルシノア城の荘厳なセットや衣装の美しさも、物語の悲劇性を強調する要素となっている。
視聴体験の価値
『ハムレット』(1948)は、単なる古典劇の映画化ではなく、
シェイクスピア悲劇を映画として新たに昇華させた芸術作品と言えます。
そのため、シェイクスピア作品に興味がある方や、クラシック映画の魅力を堪能したい方に特におすすめ。
作品の背景
『ハムレット』(1948)は、ウィリアム・シェイクスピアの代表作を、映画という新たな舞台で表現した歴史的な名作です。
本章では、本作の歴史的背景、制作の経緯、そして文化的・社会的意義について解説します。
歴史的背景とその時代の状況
① シェイクスピアの『ハムレット』とは?
- シェイクスピアが1600年頃に執筆した四大悲劇のひとつ。
- デンマーク王子ハムレットが、父を殺した叔父クローディアスへの復讐に苦悩する物語。
- 「To be, or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」の独白が特に有名。
- 人間の心理的葛藤を描く作品として、近代文学・演劇の原点とも言われる。
② 第二次世界大戦後の映画界と本作の位置づけ
- 本作が制作された1947年は、第二次世界大戦終結からわずか2年後。
- イギリス映画界は、戦争の傷跡を抱えながらも、新たな文化の再興を目指していた。
- ローレンス・オリヴィエは、戦後の混乱の中で「人間の本質」を見つめ直すべく、『ハムレット』の映画化を決意。
- 戦争の傷跡を引きずる時代において、「復讐とは何か?」「生きるとは何か?」というテーマは、深い共感を呼んだ。
作品制作の経緯や舞台裏の話
① ローレンス・オリヴィエによる映画化の挑戦
- オリヴィエは、1944年に『ヘンリー五世』を映画化し、高い評価を得ていた。
- 『ハムレット』は「舞台劇の映画化」という枠を超え、映像芸術として昇華することを目指した。
- 映画用に脚色を施し、シェイクスピアの長大な原作を約2時間半に凝縮。
② 撮影と美術の革新
- モノクロ映像を活用した表現:
- 陰影の強いコントラストが、ハムレットの内面の葛藤を象徴的に描き出す。
- 「映画的な視点から心理描写を強調する」という、新しい演劇映画のスタイルを確立。
- セットデザインの工夫:
- ゴシック調のエルシノア城のセットは、広大な空間と圧迫感を同時に表現するために計算された美術設計が施されている。
③ シェイクスピア作品の映像化における画期的なアプローチ
- 舞台劇の映像化ではなく、「映画ならではの視点で物語を語る」ことに注力。
- たとえば、ハムレットの心理的独白を表現する際、
- 舞台では直接観客に語りかけるが、
- 本作では、カメラワークやナレーションを活用することで、映画ならではの表現を実現。
作品が持つ文化的・社会的意義と影響
① 映画と演劇の融合
- 本作は、シェイクスピア劇の映画化における模範となった作品。
- その後の『ロミオとジュリエット』(1968)、『リチャード三世』(1955)、『ハムレット』(1996)など、多くの映画作品に影響を与えた。
② 英国映画界の評価を世界に高めた
- 本作は、イギリス映画として初めてアカデミー賞作品賞を受賞。
- 「文学作品の映画化」というジャンルの価値を高め、クラシック映画の新たな可能性を示した。
③ 戦後の観客に与えた影響
- 戦争を経験した人々の間で、「生きること」と「死ぬこと」の意味を問い直す作品として大きな共感を呼んだ。
- 哲学的なテーマが、人々の精神的な救済として受け入れられた。

『ハムレット』(1948)は、単なるシェイクスピア劇の映画化ではなく、映像芸術として新たな地平を切り開いた作品。
ストーリー概要
『ハムレット』(1948):復讐と宿命に翻弄される悲劇の王子
ローレンス・オリヴィエが手掛けた『ハムレット』は、シェイクスピアの原作を忠実に再現しつつ、映画ならではの表現を活かした心理劇です。
本章では、物語の概要と、その核心にあるテーマを解説します。
主要なテーマと探求される問題
① 生と死、運命と自由意志の狭間で
- 本作の最大のテーマは、「To be, or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」というハムレットの独白に象徴される、人間の存在意義への問いかけ。
- 父の復讐を果たすべきか、それとも運命に従うべきか——
自由意志で行動することの意味が、ハムレットの苦悩を通じて描かれます。
② 復讐の正義とその代償
- 亡霊によって父王の死の真相を知ったハムレットは、復讐に駆り立てられるが、その道の先に何があるのかを恐れている。
- 復讐とは正義なのか?それとも新たな悲劇の始まりなのか?
- この葛藤が、物語の悲劇性をより一層深めています。
③ 人間の心理的な弱さと狂気
- ハムレットは、復讐を決意しながらも、実行に移すことができず、優柔不断に陥る。
- 彼の行動は、しばしば「狂気」とも解釈されるが、
それは計算された策略なのか、それとも本当に精神を病んでいくのか? - 物語が進むにつれ、ハムレットの精神状態はより不安定になっていく。
ストーリーの概要
第一幕:父王の死と復讐の誓い
- 舞台はデンマーク王宮・エルシノア城。
- デンマーク王ハムレットが死去し、弟クローディアスが王位を継ぐ。
- さらにクローディアスは、前王の妻(ハムレットの母)ガートルードと急速に再婚。
- 亡霊として現れた父王の訴えにより、ハムレットは父がクローディアスに毒殺されたことを知る。
- 「父の仇を討て」という亡霊の言葉を受け、ハムレットは復讐を決意。
第二幕:狂気を装うハムレット
- ハムレットは、クローディアスを警戒させないため、狂気を装うことを決める。
- 王宮の人々は、彼の異変を疑い始め、
恋人オフィーリアの父ポローニアスは「失恋による狂気」と推測するが、真相は謎に包まれる。 - ハムレットは、王の罪を暴くため、「劇中劇」を計画。
- 王宮に招いた劇団に、「ゴンザゴ殺し」(クローディアスの犯行を再現した芝居)を演じさせ、
- クローディアスの反応を観察しようとする。
第三幕:復讐の迷いと悲劇の始まり
- 劇中劇の場面で、クローディアスは動揺し、席を立つ。
- ハムレットは確信を持つが、復讐を躊躇する。
クローディアスが祈っている姿を見て、「今殺せば彼の魂が救われてしまう」と考え、実行を見送る。 - しかし、母ガートルードとの対話中に、カーテン越しに人影を見て、
スパイだと思い込んだハムレットは、剣を突き刺してしまう——殺されたのはポローニアスだった。
第四幕:悲劇の連鎖
- ポローニアスの死により、オフィーリアは悲しみに狂い、自ら命を絶つ。
- ポローニアスの息子レアティーズは、父と妹の死の復讐を誓い、クローディアスと結託。
- ハムレットは国外へ追放されるが、王の策略に気づき、デンマークへ戻る。
- クローディアスとレアティーズは、剣に毒を塗った決闘を仕組み、ハムレットを殺そうと計画する。
第五幕:復讐の結末
- オフィーリアの葬儀で、ハムレットとレアティーズが対峙。
- 決闘が始まり、ハムレットは毒剣で負傷するが、剣が入れ替わり、レアティーズも毒に倒れる。
- レアティーズは死の間際に真実を明かし、クローディアスが黒幕であることを告白。
- ハムレットはクローディアスを剣で刺し、さらに毒酒を飲ませて復讐を果たす。
- 母ガートルードも毒酒を飲んでしまい、次々と人が倒れていく。
- ハムレットは、親友ホレーショに「デンマークの未来を託す」と言い残し、静かに息を引き取る——。
視聴者が見逃せないシーンやテーマ
① 「To be, or not to be」の独白
- 映画史に残る名シーン。
- ハムレットが、「生きるか死ぬか」を問いかけるこの場面は、
モノクロの陰影を活かした美しいカメラワークで表現されている。 - 彼の表情の移り変わりが、内面の葛藤を雄弁に語る。
② 劇中劇「ゴンザゴ殺し」の場面
- クローディアスの動揺が、彼の罪を決定的にする瞬間。
- ハムレットの策略が、舞台演出としても見事に機能している。
③ クライマックスの決闘
- ラスト20分間の緊張感は圧巻。
- 剣戟の応酬と死の連鎖が、一気に加速していく展開は、悲劇の極致。

『ハムレット』(1948)は、シェイクスピアの悲劇を、映像という新たな舞台で再解釈した傑作。
作品の魅力と見どころ
『ハムレット』(1948):映像美と演出の極致、悲劇を超えた芸術作品
ローレンス・オリヴィエによる『ハムレット』は、舞台劇を超えた映画ならではの表現が随所にちりばめられた傑作です。
本章では、映像、演技、音楽といった観点から、本作の魅力を深掘りしていきます。
特筆すべき演出や映像美
① モノクロ映像が生む陰影の美学
- 本作の白黒映像は単なる時代的な制約ではなく、意図的な演出として機能している。
- コントラストの強いライティングが、ハムレットの心理的葛藤を視覚的に強調。
- 霧がかったエルシノア城の廊下、広がる影、光と闇の使い方が、幻想的で詩的な雰囲気を生み出す。
- とくに亡霊の登場シーンは、陰影を駆使した表現によって、まるで夢幻のような美しさを湛えている。
② ダイナミックなカメラワーク
- 舞台劇では固定されがちな視点を、映画ならではの移動撮影で躍動感を加えている。
- ハムレットの独白シーンでは、カメラがゆっくりと寄っていき、観客を彼の精神世界に引き込む。
- 劇中劇の場面では、クローディアスの動揺をクローズアップで捉えることで、
心理的な緊張感を最大限に引き出している。
社会的・文化的テーマの探求
① 「To be, or not to be」の哲学
- この問いは、単なる劇中の独白ではなく、人類が永遠に問い続ける哲学的テーマ。
- 1948年、第二次世界大戦の傷跡が色濃く残る中で、本作は「人間はなぜ生きるのか?」という問いを観客に突きつけた。
- ハムレットの苦悩は、戦争の悲劇を経験した世界中の人々にとって、より現実的なものとして響いた。
② 権力闘争と倫理の問題
- クローディアスの策略、ハムレットの復讐、レアティーズの怒り——。
- 物語は「正義とは何か?」という問いを繰り返し提示し、
復讐が生むさらなる悲劇を冷徹に描き出す。 - 現代の政治や社会問題にも通じるテーマとして、普遍的な価値を持つ作品である。
視聴者の心を打つシーンやテーマ
① 「To be, or not to be」の独白
- 本作の最も象徴的な場面。
- オリヴィエの演技は抑制が効いており、静かに、しかし確実に観る者の心に訴えかける。
- カメラがゆっくりと寄り、ハムレットの心の迷いと恐れが映し出される。
② 劇中劇「ゴンザゴ殺し」の緊張感
- ハムレットの策略によって、クローディアスの動揺が露わになる瞬間。
- 舞台の演技と、クローディアスのリアクションが交互に映し出され、心理戦の妙を演出。
③ クライマックスの決闘
- 剣戟の迫力と、死の連鎖が圧倒的なテンポで畳みかける。
- 白黒映像の中で、キャラクターの躍動感が際立ち、悲劇のクライマックスにふさわしい壮絶な結末となる。

『ハムレット』(1948)は、舞台劇を映画として再構築した芸術作品。
視聴におすすめのタイミング
『ハムレット』(1948):深く考えたい夜に、心の奥底を照らす悲劇の詩
『ハムレット』(1948)は、単なる古典劇の映画化ではなく、人間の心理を深くえぐる哲学的な作品。
そのため、視聴するタイミングを選ぶことで、より一層その魅力を味わうことができます。
本章では、どのような気分のときに本作を観るべきか、そして視聴に適した環境について解説します。
このような時におすすめ
タイミング | 理由 |
---|---|
自分の生き方について深く考えたい時 | 「To be, or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」というテーマが、人生についての内省を促す。 |
静かにクラシック映画を味わいたい時 | 美しいモノクロ映像と、詩的なセリフが、心にじっくりと響く。 |
演技の素晴らしさを堪能したい時 | ローレンス・オリヴィエの圧巻の演技が、シェイクスピア劇の真髄を体現。 |
文学や哲学に興味がある時 | シェイクスピアの言葉の力、倫理や復讐のテーマが、深い思索へと誘う。 |
第二次世界大戦後の映画史に触れたい時 | 本作は戦後のイギリス映画を象徴する作品であり、歴史的背景を理解するのに最適。 |
シェイクスピア作品を初めて観る時 | 映画としての完成度が高く、舞台よりも入りやすい構成になっている。 |
視聴する際の心構えや準備
心構え | 準備するもの |
---|---|
静かな環境で、じっくりと向き合う | 台詞が美しく繊細なため、雑音のない環境で観るのが理想的。 |
モノクロ映像を「美」として捉える | 白黒のコントラストが心理描写を強調しているため、映像の陰影に注目。 |
字幕付きで観ることを推奨 | シェイクスピア独特の英語表現が多いため、日本語字幕を活用すると理解が深まる。 |
劇中の「間(ま)」を味わう | 舞台演劇に近い演出が多いため、台詞の間や動作の意味を考えながら観ると面白い。 |
ハムレットの「迷い」に共感する | 主人公の苦悩を「優柔不断」と捉えるのではなく、「人間らしい葛藤」として見ると、新たな発見がある。 |

「あなたは、復讐に生きるか、それとも運命を受け入れるか?」
この映画を観ることで、ハムレットの葛藤が、あなた自身の思索へとつながるかもしれません。
作品の裏話やトリビア
『ハムレット』(1948):ローレンス・オリヴィエが生んだシェイクスピア映画の金字塔
『ハムレット』(1948)は、映画と演劇の融合を追求した革新的な作品であり、その制作の裏には多くの興味深いエピソードが隠されています。
本章では、本作の制作秘話や、知っておくとさらに楽しめるトリビアを紹介します。
制作の背景
① ローレンス・オリヴィエの執念
- オリヴィエは、すでに『ヘンリー五世』(1944)でシェイクスピア映画化の成功を収めていた。
- 『ハムレット』では、舞台劇の形式を守りつつ、映画ならではの映像表現を追求することを目指した。
- オリヴィエは、シェイクスピアの長大な原作を映画向けに大胆にカットし、上映時間を約2時間半に短縮。
- 舞台では4~5時間かかることもある作品を、映画として観やすくするための決断だった。
- その結果、ローゼンクランツとギルデンスターンといった脇役のシーンはカットされている。
② モノクロ映像の美学
- 本作は、あえてモノクロで撮影することで、心理劇としての緊張感を高めた。
- ゴシック様式の美術と、陰影の強いライティングが、デンマーク王宮の冷たさと孤独感を強調している。
- 「まるで白黒の夢の中に迷い込んだような映画を作りたかった」と、オリヴィエは語っている。
出演者のエピソード
① ローレンス・オリヴィエの完璧主義
- 彼は主演・監督・脚本を務め、映画のあらゆる側面に関与。
- ハムレットの心理描写を徹底的に追求し、撮影現場では「全員がハムレットの心境を理解すること」を求めた。
- 彼の演技は「ナチュラルではなく、計算され尽くしたもの」と評されており、
「ハムレットの優柔不断さ」すらも、演技としての緻密な計算のうえに成り立っている。
② ジーン・シモンズ(オフィーリア役)の抜擢
- 当時まだ18歳だったジーン・シモンズは、この映画の成功によってスター女優への道を歩み始めた。
- 彼女の儚くも繊細な演技は、オリヴィエによって徹底的に指導された。
- オフィーリアが狂気に陥るシーンは、彼女自身の感情を極限まで追い込んで撮影されたといわれる。
視聴者が見落としがちなポイント
① シェイクスピア作品としての映像的工夫
- 「独白(モノローグ)」の演出に注目
- ハムレットが心の声を語るシーンでは、カメラがゆっくりと寄り、観客を彼の思考の中へと誘う。
- 舞台では観客に向かって語られる独白が、映画では「静かな語り」として映像に落とし込まれている。
② ゴシック建築とセットデザイン
- エルシノア城のセットは、映画のために特別に設計され、巨大でありながら閉塞感のある空間が作られた。
- 階段や長い廊下は、ハムレットの孤独感を強調するためにデザインされている。
③ 亡霊の演出
- ハムレットの父の亡霊は、実際の俳優が演じたものだが、
- 「声はオリヴィエ自身が演じた」と言われており、ハムレットの精神的な投影であることを暗示している。
- 亡霊のシーンでは、スローモーションやエコー効果が使用され、幻想的な雰囲気を強調している。
歴史的事実との違い
① ハムレットの「年齢設定」
- シェイクスピアの原作では、ハムレットは30歳とされているが、
- 本作では、オリヴィエはハムレットを「若々しく繊細な王子」として演じている。
- 実際のオリヴィエは当時40歳だったが、より青年らしい雰囲気を出すため、髪をブロンドに染めている。
② 映画のラストシーンの改変
- 原作では、ハムレットの死後、ノルウェーのフォーティンブラスが登場するが、
- 本作ではフォーティンブラスの登場を省略し、ハムレットの死をより象徴的に描いている。

『ハムレット』(1948)は、シェイクスピア劇を映像芸術として昇華させた作品。
締めくくりに
『ハムレット』(1948)は、シェイクスピア劇の映画化として、今なお語り継がれる最高峰の作品です。
ローレンス・オリヴィエは、舞台演劇の枠を超え、映像という芸術の中に「ハムレットの心理」そのものを封じ込めました。
本章では、本作を通じて私たちが得られるもの、そしてこの映画が持つ歴史的意義を総括します。
映画から学べること
① 人間の本質を問い続ける作品
- 「To be, or not to be」の問いかけは、シェイクスピアの時代だけでなく、現代においても普遍的なテーマです。
- 「人間はなぜ生きるのか?」という根源的な哲学を、ハムレットの迷いや葛藤を通じて体感できる。
- そして、この問いの答えは、観る者それぞれの人生経験によって異なるものになるでしょう。
② 映像による詩的表現の極致
- 本作は、演劇の枠を超えて、映画ならではのカメラワークや光と影の演出を駆使し、
「心理劇としてのハムレット」を見事に映像化しています。 - 映画史における「文学作品の映画化」の到達点のひとつといえるでしょう。
③ 「復讐の正義」と「運命の皮肉」
- ハムレットは、正義のために復讐を誓いながらも、その道の先にあるのはさらなる悲劇。
- 彼の苦悩は、単なる劇中の出来事ではなく、
「正義とは何か?」「人は本当に運命に抗えるのか?」という現代にも通じる問いを投げかけます。
視聴体験の価値
『ハムレット』(1948)は、ただの古典映画ではありません。
むしろ、観るたびに異なる感情を抱かせる、時を超えた体験を提供する作品です。
- 若い頃に観れば、ハムレットの激情と苦悩に共感し、
- 人生経験を積んで観れば、彼の迷いと運命の皮肉をより深く理解する。
その意味で、この映画は「人生とともに熟成される一本のワイン」のようなものです。
観る人の状況や心境によって、全く異なる味わいをもたらしてくれる——そんな映画なのです。
最後に
親愛なる映画ファンの皆様、
『ハムレット』(1948)鑑賞ガイドをお読みいただき、ありがとうございました。
この映画をワインに例えるなら、数十年の熟成を経て、最も深い味わいを持つヴィンテージ・ボルドー。
最初の一口ではその奥深さに気づかなくとも、時間とともに香りが開き、
最後には強烈な余韻が、長く心に残る。
「To be, or not to be」
その問いかけは、400年以上の時を超え、今もなお私たちに響き続けています。
ハムレットの迷い、苦悩、怒り、絶望——そして最後に残る「人間の本質」について、
ぜひじっくりと味わいながら、あなた自身の答えを見つけてください。
それでは、また次回の映画鑑賞ガイドでお会いしましょう。
静寂の中にこだまする、ハムレットの声を感じながら——。
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