親愛なる映画ファンの皆様、こんにちは。歴史映画ソムリエのマルセルです。
今回ご紹介するのは、ソビエト連邦を揺るがせた独裁者スターリンの死と、その後の権力闘争をブラックコメディとして描いた異色の歴史映画『スターリンの葬送狂騒曲』です。
2017年公開の本作は、『Veep/ヴィープ』のクリエイターとして知られるアルマンド・イアヌッチ監督が手がけ、スターリン死後のソ連政府高官たちの混乱と陰謀を、史実を基にしながらも風刺の効いたユーモアで描いています。
キャストには、スティーヴ・ブシェミ(ニキータ・フルシチョフ)、ジェフリー・タンバー(ゲオルギー・マレンコフ)、サイモン・ラッセル・ビール(ラヴレンチー・ベリヤ)ら、実力派俳優が揃い、それぞれの役割を見事に演じています。
物語の舞台は1953年のモスクワ。30年にわたりソ連を支配したスターリンが突然死すると、彼の側近たちは後継者の座を巡って壮絶な政治闘争を繰り広げます。
本作は、スターリンの死という歴史的事件を背景に、独裁政権の崩壊がもたらす混乱、権力者たちの醜い争い、そして政治の本質を、痛烈なブラックユーモアと共に描いた傑作です。
ワインに例えるなら、それはフルボディのシラーズに強烈なスパイスを効かせた一本。
口に含んだ瞬間は滑らかだが、飲み込むにつれて刺激的な後味が広がる——そんな風刺の効いた政治劇を、ぜひご堪能ください。
作品基本情報
項目 | 情報 |
---|---|
タイトル | スターリンの葬送狂騒曲 |
原題 | The Death of Stalin |
製作年 | 2017年 |
製作国 | イギリス |
監督 | アルマンド・イアヌッチ |
主要キャスト | スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、ジェフリー・タンバー、マイケル・ペイリン、ジェイソン・アイザックス |
ジャンル | ブラックコメディ、歴史、風刺 |
上映時間 | 107分 |
評価 | IMDb:7.3/10、Rotten Tomatoes: 95% |
物語の魅力
① 史実に基づいたブラックコメディ
- スターリンの死後に実際に起こった混乱と政争を、ブラックユーモアを交えて描く異色の歴史映画。
- 「独裁者が死んだ後、誰が次の権力者になるのか?」というテーマは、今の政治情勢にも通じる。
② 実力派キャストの圧巻の演技
- スティーヴ・ブシェミをはじめ、名優たちが演じる冷酷で滑稽な政治家たちのやり取りは必見。
- マイケル・ペイリン(モンティ・パイソンのメンバー)が演じるモロトフのキャラクターも、皮肉たっぷりで楽しめる。
③ 独裁政権の崩壊が生むカオスを描く
- スターリンの死によってソ連政府がパニックに陥る様子をリアルかつコミカルに描写。
- 「誰が後継者になるか?」を巡る権力闘争は、まるで政治家版の『ゲーム・オブ・スローンズ』。
視聴体験の価値
『スターリンの葬送狂騒曲』は、歴史的事件を題材にしながらも、風刺とユーモアを巧みに織り交ぜた知的なエンターテインメントです。
実際に起こった出来事を基にしているため、歴史好きはもちろん、政治ドラマやブラックコメディを好む方にもおすすめの作品です。
作品の背景
『スターリンの葬送狂騒曲』は、1953年のソ連で実際に起こったスターリンの死と、その後の権力闘争をブラックユーモアたっぷりに描いた作品です。
独裁者の死後に繰り広げられる混乱は、歴史的にも興味深い出来事であり、本作はそれを痛烈な風刺として再構築しました。
この章では、映画の歴史的背景、制作の経緯、文化的・社会的意義について詳しく掘り下げます。
歴史的背景とその時代の状況
① スターリンの死とソ連の混乱
- 1953年3月5日、ソビエト連邦の最高指導者ヨシフ・スターリンが脳卒中で死去。
- スターリンの死はソ連政府にとって予期せぬ出来事であり、彼の側近たちは後継者を巡る政治闘争に突入する。
- 独裁者がいなくなったことで、権力の均衡が崩れ、内部の権力争いが激化した。
② 権力闘争の主要人物
映画では、スターリン死後のソ連の実際の権力争いを、以下の登場人物を通して描いている。
映画の登場人物 | 実在の人物 | 役割 |
---|---|---|
ニキータ・フルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ) | ニキータ・フルシチョフ | 後にソ連の最高指導者となるが、当初は地位が低かった。スターリンの死後、巧妙に立ち回る。 |
ラヴレンチー・ベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール) | ラヴレンチー・ベリヤ | 国家保安大臣(秘密警察長官)。スターリン死後、実権を握ろうとするが、最終的には失脚。 |
ゲオルギー・マレンコフ(ジェフリー・タンバー) | ゲオルギー・マレンコフ | スターリンの正式な後継者とされたが、政治的に未熟で実権を握れなかった。 |
ヴャチェスラフ・モロトフ(マイケル・ペイリン) | ヴャチェスラフ・モロトフ | 元外務大臣。スターリンに粛清されかけるも、死後に復帰。 |
ゲオルギー・ジューコフ(ジェイソン・アイザックス) | ゲオルギー・ジューコフ | 第二次世界大戦の英雄。フルシチョフと共にベリヤを追放する。 |
作品制作の経緯や舞台裏の話
① コメディと歴史の融合
- 監督のアルマンド・イアヌッチは、「スターリン死後のソ連は、権力者たちの無能さと恐怖が入り混じった狂気の世界だった」と語り、それをブラックコメディに仕立てた。
- 実際の歴史を調査しつつ、現代社会の政治風刺としても機能する作品に仕上げた。
② 史実に基づいたが、一部はフィクション
- 基本的に歴史的事実に忠実だが、時間軸を圧縮し、ドラマチックな演出が加えられている。
- 例えば、ベリヤの失脚はスターリンの死後すぐに起こったわけではなく、実際には数ヶ月後の出来事。
③ ロシアでは上映禁止に
- ロシア政府は本作の内容を「歴史を冒涜するもの」として批判し、国内上映を禁止。
- 特に、ソ連時代の指導者たちが無能で滑稽に描かれている点が問題視された。
- 逆に欧米では高い評価を受け、「過去の独裁政権を笑い飛ばすことで、現代の政治にも警鐘を鳴らす作品」として評価された。
作品が持つ文化的・社会的意義
① 「権力闘争」の普遍性
- 映画で描かれる「独裁者が死んだ後の政治混乱」は、歴史上繰り返されてきた現象。
- スターリンの死後のソ連だけでなく、現代の政治にも通じるテーマであり、独裁政権が崩壊した際に起こる権力闘争の本質を見せている。
② 政治の不条理を笑い飛ばす力
- 本作は、歴史の悲劇をブラックコメディとして描くことで、「政治とはいかに滑稽で、非合理的なものか」を観客に気づかせる。
- 笑いを通じて、権力の本質を批判する手法は、モンティ・パイソンやチャップリンの『独裁者』にも通じる。
③ スターリンの負の遺産を振り返る
- スターリン政権下では、粛清、拷問、強制収容所(グラグ)が横行し、数百万人が犠牲になった。
- 映画では、そうした背景をコメディにしながらも、決して歴史の残酷さを忘れさせないように描いている。
- 例えば、ベリヤが粛清を進める一方で、自分の権力を守るためにあたふたする姿は、独裁者の悲哀そのもの。

『スターリンの葬送狂騒曲』は、歴史的事実に基づきながらも、強烈なブラックユーモアで独裁政治を笑い飛ばす異色の映画です。
ストーリー概要
『スターリンの葬送狂騒曲』は、1953年のソビエト連邦を舞台に、スターリンの突然の死によって引き起こされた混乱と後継争いを描いたブラックコメディです。
恐怖政治の終焉を迎えたソ連政府の高官たちが、いかにして混沌の中で権力を奪い合ったのか? その狂気じみた過程がユーモアと皮肉たっぷりに描かれています。
主要なテーマと探求される問題
① 権力闘争と独裁体制の崩壊
- スターリンの死後、政府高官たちは次期指導者の座を巡り、裏切り・陰謀・策略を駆使して争う。
- 誰が味方で誰が敵なのか、全員が疑心暗鬼になりながら進む政治劇。
- 独裁政権の終焉が、いかにして新たな混乱を生み出すのかを見事に描いている。
② 独裁者不在の混乱と恐怖政治の残響
- スターリンの死後も、誰もが粛清を恐れ、互いに密告を疑う恐怖政治の名残が残る。
- 「独裁者がいなくなっても、恐怖は簡単には消えない」というメッセージが込められている。
③ 政治の不条理を笑い飛ばすブラックコメディ
- 権力者たちは表向きは冷静に振る舞いながらも、その内実は滑稽で無能な政治ゲームを繰り広げる。
- 歴史的事実を皮肉たっぷりに描きながら、政治の愚かさと不条理を笑いに変えている。
ストーリーの概要
第一幕:スターリンの死と政府の混乱
- 1953年、ソビエト連邦の独裁者ヨシフ・スターリンが突然の脳卒中で倒れる。
- 彼の側近たちはすぐに集まるが、誰も決断を下せず、医師を呼ぶかどうかすら迷う始末。
- そもそもスターリン自身が粛清を繰り返した結果、まともな医者が残っておらず、適切な治療ができないという皮肉な状況。
- 翌朝、スターリンは死亡し、政府は後継者問題に直面する。
第二幕:後継者争いの幕開け
- 公式にはゲオルギー・マレンコフ(ジェフリー・タンバー)が後継者とされるが、彼はお飾りのような存在で、実権は握れない。
- ニキータ・フルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)と秘密警察長官ラヴレンチー・ベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)が、実際の権力をめぐって水面下で対決を始める。
- ベリヤは「スターリン時代の粛清リスト」を利用して政敵を抹殺しようとするが、フルシチョフも巧妙に動き出す。
第三幕:スターリンの葬儀と権力の転覆
- スターリンの国葬が行われるが、その裏では激しい権力闘争が続く。
- フルシチョフは元帥ゲオルギー・ジューコフ(ジェイソン・アイザックス)と手を組み、軍を動かしてベリヤを追い詰める。
- 葬儀の最中、ベリヤが逮捕され、その場で裁判が行われ、即座に処刑される。
- フルシチョフはついにソ連の実権を握るが、彼もまた、次なる独裁者へと変貌していく兆しが見え始める——。
視聴者が見逃せないシーンやテーマ
① スターリンの死後、誰もが決断を下せないシーン
- スターリンが倒れたにも関わらず、側近たちは「誰が責任を取るのか?」を恐れて動けない。
- これは、独裁政権が生んだ「責任の所在が曖昧な組織」の愚かさを象徴するシーン。
② スターリンの葬儀のカオス
- 民衆はスターリンの死を悼むが、その裏で政治家たちは権力闘争に奔走。
- 軍隊が動員され、追悼の場が権力闘争の最前線へと変貌する瞬間はブラックユーモアの極み。
③ ベリヤの最期
- ソ連の秘密警察を掌握し、恐怖政治を敷いていたベリヤが、フルシチョフによって粛清される皮肉な結末。
- 「昨日の支配者が、今日の犠牲者になる」——スターリン政権下で繰り返された権力のゲームが、ベリヤにも降りかかる。

『スターリンの葬送狂騒曲』は、政治の世界に潜む不条理と恐怖を、ブラックユーモアを交えて描いた傑作です。
作品の魅力と見どころ
『スターリンの葬送狂騒曲』は、ブラックユーモアとシリアスな歴史が絶妙に融合した異色の政治映画です。
スターリンの死後、側近たちが繰り広げる権力闘争を、シリアスに描きつつもコミカルな要素を散りばめた本作は、独裁政治の不条理さを痛烈に風刺しています。
ここでは、本作の特筆すべき演出や映像美、テーマ、そして視聴者の心を打つシーンを紹介します。
特筆すべき演出や映像美
① 史実に忠実でありながら、笑いを生む演出
- 監督のアルマンド・イアヌッチは、史実に基づいた細部のリアリティを徹底しつつ、ブラックコメディとしてのユーモアを織り交ぜた演出を展開。
- 実際に起こった出来事を、「もしもこれが舞台劇だったら?」という視点でテンポよく展開。
- シリアスな歴史的事件を、まるでコントのように描く場面の数々が印象的。
② 混乱と不条理を象徴するカメラワーク
- キャラクターたちの心理的動揺や政治的混乱を表現するため、カメラは頻繁に動き、視点が変化する。
- 会議室でのシーンでは、政治家たちが次々に口論を繰り広げる様子を、長回しで捉えることで臨場感を演出。
- スターリンの死後のパニックを描くシーンでは、クローズアップと引きのカットを巧みに組み合わせ、登場人物の心理を際立たせる。
③ ソ連時代の緻密な美術セット
- スターリン時代のソビエト宮殿や、秘密警察の建物、国葬の会場など、細部まで再現されたセットデザインが見事。
- 厳格な共産主義体制の象徴である巨大な建築物と、そこにいる無能な政治家たちのギャップがコメディ的な効果を生んでいる。
社会的・文化的テーマの探求
① 「独裁の終焉」と「次の独裁者の誕生」
- スターリンが死ぬことで、独裁体制が終わるかと思いきや、次の独裁者が生まれるまでの過程をリアルに描く。
- フルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)は、最初はスターリンの粛清を恐れていたが、物語が進むにつれ、まるでスターリンのような権力者になっていく。
- 「独裁政権は、たった一人の死では終わらない」——このテーマがラストシーンにまで貫かれている。
② 「恐怖政治の遺産」
- スターリンがいなくなった後も、粛清の恐怖は政府内に深く根付いている。
- ベリヤは自らの権力を守るため、過去の粛清リストを使い、さらに恐怖政治を継続しようとする。
- しかし、彼もまた最終的に「粛清される側」に回るという皮肉な展開が描かれる。
- 「独裁者の死ではなく、体制そのものを変えなければ恐怖は終わらない」——この皮肉が映画全体を貫いている。
③ 「政治家たちの無能さとエゴ」
- 登場する政治家たちは、スターリンの後継者争いに奔走するが、ほとんどの人物が無能で滑稽。
- 重要な決断を下せないマレンコフ、恐怖に怯えるモロトフ、野心的なベリヤ、そして最終的に勝ち残るフルシチョフ。
- 「政治とは、能力のある者が指導者になるのではなく、生き残った者がなるのだ」——そんな皮肉をこめた作品になっている。
視聴者の心を打つシーンやテーマ
① スターリンの死後、側近たちが医者を呼ぶか決められないシーン
- スターリン自身が「医者たちを粛清したせいで、まともな医者が残っていない」というブラックな展開。
- 「誰が決断するのか?」と押し付け合い、結局誰も責任を取らないまま、スターリンは死を迎える。
② スターリンの国葬でのカオスな展開
- 政府高官たちは表向きは悲しんでいるが、内心ではどうやって権力を握るかを考えている。
- 葬儀の最中、国民と軍が暴動寸前になり、ベリヤとフルシチョフの対立が一気に表面化する。
③ ベリヤの粛清シーン
- スターリンの右腕として恐怖政治を指揮していたベリヤが、最後には自分が粛清される。
- これまで冷酷に振る舞っていた彼が、自分が処刑される瞬間、命乞いを始めるという皮肉な展開。
- 「昨日の支配者が、今日の犠牲者になる」——このシーンが、独裁政治の恐ろしさを象徴している。

『スターリンの葬送狂騒曲』は、政治の不条理と独裁体制の愚かさを、シリアスかつ痛快なブラックコメディとして描いた傑作です。
視聴におすすめのタイミング
『スターリンの葬送狂騒曲』は、歴史とブラックコメディが融合した異色の作品。
政治の裏側や権力闘争の不条理さを笑いながらも鋭く描いているため、視聴するタイミングによってその印象も変わるでしょう。
ここでは、本作を最も楽しめるタイミングと、映画を深く味わうための心構えを紹介します。
このような時におすすめ
タイミング | 理由 |
---|---|
政治の裏側を風刺した作品を楽しみたい時 | 実際の歴史をもとにしながら、政治の世界の不条理をユーモアたっぷりに描いている。『ドクター・ストレンジラブ』や『モンティ・パイソン』のような風刺映画が好きな人にぴったり。 |
権力闘争のリアルを知りたい時 | 「政治家たちがいかにして権力を争い、互いに裏切るのか?」というテーマを、歴史的事件を通じて学ぶことができる。 |
独裁政権の終焉に興味がある時 | スターリンの死後、ソ連政府がどのように混乱し、誰が次の指導者になるのかが描かれている。 |
社会や政治に対して疑問を感じている時 | 現代の政治と照らし合わせて観ると、より深い意味が見えてくる。 |
シリアスな歴史映画よりも軽く楽しみたい時 | 史実に基づいているが、ブラックコメディとして描かれているため、重すぎずテンポよく観ることができる。 |
視聴する際の心構えや準備
心構え | 準備するもの |
---|---|
ブラックユーモアに慣れる | コメディといっても、風刺が強く、笑いの中に皮肉が詰まっているため、そのスタイルを理解しておくとより楽しめる。 |
歴史的背景を軽く調べておく | スターリンの死後のソ連政治や、フルシチョフ、ベリヤ、マレンコフといった人物の実際の役割を知っておくと、より深く楽しめる。 |
「政治家はみな滑稽な存在」という視点を持つ | 本作は「政治の世界は本質的に滑稽である」という視点で作られているため、真面目に観すぎず、ある種のブラックな楽しみ方をするとよい。 |
独裁者が死んでも何も変わらないという皮肉を理解する | 本作では「スターリンが死んでも、次の独裁者が生まれるだけ」というテーマが貫かれているため、その視点で観るとより深い意味が見えてくる。 |
シリアスな映画を観た後に、リフレッシュ感覚で観る | 例えば、『スターリンの死』を扱ったドキュメンタリーや、重厚な歴史映画の後に観ると、政治のもう一つの側面として面白く感じられる。 |

『スターリンの葬送狂騒曲』は、政治の世界の裏側を皮肉たっぷりに描いた知的なブラックコメディ。
作品の裏話やトリビア
『スターリンの葬送狂騒曲』は、実際の歴史的事件を基にしながら、鋭いブラックユーモアで政治の不条理を描いた異色の作品です。
その制作の背景には、興味深いエピソードや、知っておくとより楽しめるトリビアが詰まっています。
この章では、映画の舞台裏、キャストのエピソード、歴史との違い、隠された小ネタなどを紹介します。
制作の背景
① 史実に基づくが、風刺のために大胆なアレンジ
- 本作は、ファビアン・ヌーリーとティエリー・ロバンによるフランスのグラフィックノベル『La Mort de Staline(スターリンの死)』を原作としている。
- 映画は歴史的事実をもとにしているが、コメディ要素を強調するため、時間軸を圧縮し、キャラクターの性格をより誇張している。
- 例えば、スターリンの死後すぐにベリヤが処刑されるように描かれているが、実際には彼が失脚するまで数ヶ月を要した。
- それでも、本作が描く「独裁者が死んだ後の混乱」は、実際にソ連政府内で起こったことに非常に忠実。
② ソ連・ロシアでは上映禁止に
- ロシア政府は本作を「歴史を冒涜するもの」として批判し、国内上映を禁止。
- ロシア国防省の高官は「本作はスターリンを侮辱し、ロシアの歴史を汚す」と発言し、ロシア国内の一部の政治家も上映反対の声を上げた。
- ロシアだけでなく、カザフスタンやキルギスなどの旧ソ連諸国でも上映が制限された。
- しかし、ヨーロッパやアメリカでは「権力の本質を風刺した傑作」として高い評価を受けた。
キャストのエピソード
① スティーヴ・ブシェミ、フルシチョフ役に抜擢
- 当初、監督のアルマンド・イアヌッチはスティーヴ・ブシェミをフルシチョフ役に起用するつもりはなかった。
- しかし、彼の風刺的な演技力と独特のカリスマ性が評価され、最終的にキャスティングされた。
- ブシェミは、フルシチョフの「小物感」と「後に独裁者へと変貌していく野心」を見事に演じ切った。
② ジェイソン・アイザックス(ジューコフ元帥役)の強烈な存在感
- ジューコフ元帥役のジェイソン・アイザックスは、わずか数シーンの登場ながら、圧倒的なカリスマ性とユーモアで観客を魅了。
- 彼の登場シーンでは、「俺が入室したら敬礼しろ!」と命令し、全員が慌てて敬礼する場面が印象的。
- 実際のジューコフ元帥はスターリンの死後、フルシチョフと手を組み、ベリヤを失脚させた重要人物。
③ サイモン・ラッセル・ビール(ラヴレンチー・ベリヤ役)の恐ろしさ
- ベリヤ役のサイモン・ラッセル・ビールは、実際のベリヤの残虐性を反映しながらも、皮肉たっぷりの演技を見せる。
- 彼が「スターリンが死んだ瞬間、ソ連の未来は俺のものだ」と確信するシーンは、まさに独裁者の側近の心理を描いた名場面。
視聴者が見落としがちなポイント
① スターリンの死後の医療問題の皮肉
- 映画では、スターリンが倒れた後、誰も医者を呼ぶ決断ができず、適切な治療が受けられない。
- これは、スターリンが「陰謀を企てた」として多くの医者を粛清したため、残った医者たちがまともに機能しなかったことを風刺している。
② ベリヤの「粛清リスト」
- 映画の中で、ベリヤが「スターリンの粛清リスト」を使って政敵を排除しようとするシーンがある。
- これは史実に基づいており、実際にスターリンは「次に粛清する政治家のリスト」を持っていたとされる。
- 皮肉なのは、ベリヤ自身も最終的にはフルシチョフの粛清リストに載り、処刑されることになる点。
③ スターリンの葬儀シーンの群衆の混乱
- スターリンの国葬では、群衆がパニックを起こし、押し合いへし合いになるシーンがある。
- 実際のスターリンの葬儀でも、モスクワの広場に集まった人々が混乱し、数百人が圧死したと言われている。
④ フルシチョフの「成り上がり」
- 映画では、最初は脇役のようだったフルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)が、最終的に政権を掌握する様子が描かれる。
- これは史実に基づいており、スターリン死後のソ連で最も影響力を持つ政治家になり、最終的に最高指導者となる。
- しかし、映画のラストで彼の背後にいる若き政治家(実際にはブレジネフを暗示)が映し出されることで、次の権力争いが待っていることを示唆している。

『スターリンの葬送狂騒曲』は、歴史の裏側にある政治の滑稽さをブラックユーモアで描いた風刺映画の傑作。
締めくくりに
『スターリンの葬送狂騒曲』は、歴史の闇にブラックユーモアの光を当てた異色の政治風刺映画です。
スターリンの死後、ソ連政府内で繰り広げられた権力争いの実態を、史実に基づきながらも痛烈な風刺とシニカルな笑いで描いている本作は、単なる歴史映画ではなく、「権力とは何か?」という問いを観客に突きつける作品となっています。
映画から学べること
① 権力闘争はどの時代も滑稽で残酷
- どんなに崇高な理想を掲げた国家であっても、権力の移行期には混乱と陰謀が渦巻く。
- 1953年のソ連で起こった出来事は、現代の政治にも通じる部分がある。
- 「誰が国を動かすのか?」という問題は、どんな時代でも権力者たちの個人的な野心や恐怖に左右される。
② 独裁体制が終わっても、次の独裁者が生まれる
- 映画はスターリンの死後に焦点を当てているが、最後に登場する若き政治家(ブレジネフ)が、新たな権力者として待ち構えていることを示唆。
- 歴史は繰り返す——独裁者が死んでも、独裁体制そのものを変えなければ、また新たな独裁者が生まれる。
③ 政治の本質を見抜く力を養う
- 権力を握る人々の行動は、常に合理的とは限らない。
- 本作は、「政治家が愚かに見える時、それは演出かもしれない」という視点を持つことの重要性を教えてくれる。
- ユーモアを交えながらも、政治の裏側を鋭く描くことで、現代の政治を考えるヒントを与えてくれる作品。
視聴体験の価値
『スターリンの葬送狂騒曲』は、単なる歴史映画ではなく、
「歴史の悲劇をコメディにすることで、本質を鋭く突く」というユニークなアプローチを取った作品です。
シリアスな歴史を学ぶことも重要ですが、時には笑いを交えながらその本質を理解することも大切。
この映画を観た後は、「政治とは何か?」「権力者はなぜこうも滑稽なのか?」という問いが頭に残ることでしょう。
最後に
親愛なる映画ファンの皆様、『スターリンの葬送狂騒曲』鑑賞ガイドをお読みいただき、ありがとうございました。
この映画が皆様にとって、歴史の暗部を考えるきっかけとなり、同時に「政治を笑い飛ばす力」の重要性を感じる機会となれば幸いです。
ワインに例えるなら、それは熟成されたピノ・ノワールにブラックペッパーを効かせた一本。
なめらかでありながら、刺激的なスパイスがピリリと効いており、飲み終えた後にじわじわと奥深い余韻が広がる——そんな作品です。
それでは、また次回の映画鑑賞ガイドでお会いしましょう。
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