親愛なる映画ファンの皆様、こんにちは。歴史映画ソムリエのマルセルです。
本日ご紹介するのは、ロベルト・ロッセリーニ監督による1945年の映画『無防備都市』です。
本作は、イタリア・ネオレアリズモ(新写実主義)の先駆けとなった作品であり、第二次世界大戦下のローマを舞台に、ナチスの支配に抗うレジスタンスの闘いと市民たちの苦悩を描いています。1945年に製作され、戦後すぐの1946年にはカンヌ国際映画祭で最高賞(グランプリ)を受賞するなど、世界中に衝撃を与えた作品です。
「ネオレアリズモ」とは?
- 戦争の爪痕が残るリアルな街並みをそのまま映し出す
- プロの俳優と素人の演技を組み合わせたリアルな演出
- フィルムが不足する中、即興的な撮影で生々しいドラマを展開
本作は、イタリアの首都ローマがナチス・ドイツに占領されていた1944年を舞台に、レジスタンスの指導者マンフレーディと彼を支える市民たちの姿を描きます。
彼らは圧倒的な暴力の前に次々と追い詰められながらも、決して屈しません。それぞれの生き様と犠牲が、戦争の非情さと人間の持つ勇気を強く訴えかけるのです。
主演を務めるのは、イタリア映画史に名を刻む名女優アンナ・マニャーニ。彼女の演じるピーナの壮絶な運命は、本作最大の衝撃的シーンのひとつとして記憶され続けています。
この映画を観ることは、単に戦争映画を楽しむだけではなく、戦時下における市民の苦悩や人間の尊厳を改めて考える機会となるでしょう。
作品基本情報
項目 | 情報 |
---|---|
タイトル | 無防備都市 |
原題 | Roma città aperta |
製作年 | 1945年 |
製作国 | イタリア |
監督 | ロベルト・ロッセリーニ |
主要キャスト | アルド・ファブリッツィ、アンナ・マニャーニ、マルチェロ・パリエロ、ハリー・ファイスト |
ジャンル | 戦争、ドラマ、ネオレアリズモ |
上映時間 | 103分 |
評価 | IMDb:8.0/10、Rotten Tomatoes: 100% |
受賞歴 | 1946年 カンヌ国際映画祭 グランプリ受賞 |
物語の魅力
① ネオレアリズモの先駆け
- 本作は、イタリア・ネオレアリズモの原点とされ、リアルな市民の生活や戦時下の現実をありのままに描き出しています。
- スタジオ撮影ではなく、戦争で荒廃したローマの街並みをそのままロケ地として使用。
- 素人俳優も起用し、即興的な演技で「生きたドキュメンタリー」としての迫力を持たせています。
② 戦争下のローマ市民の葛藤と勇気
- 主人公は、ナチス占領下のローマでレジスタンス活動を行う人々。
- レジスタンス指導者マンフレーディ、その同志である新聞編集者フランチェスコ、そして彼らを支えるドン・ピエトロ神父。
- 市民が戦争にどう立ち向かうかを描きながら、戦時下の圧倒的な恐怖を映し出します。
③ 現実の事件に基づくストーリー
- 本作のドン・ピエトロ神父のモデルは、実際にナチスに処刑されたローマの司祭ジュゼッペ・モラリア。
- ナチスの拷問や弾圧、レジスタンスの運命は、戦時中に起こった実際の出来事を基にしています。
- フィクションでありながら、リアルなドキュメンタリーのような緊張感を持つ作品です。
視聴体験の価値
『無防備都市』は、単なる戦争映画ではなく、戦時下の市民の苦悩と勇気を描いた歴史的証言とも言える作品です。
- 戦争映画が好きな人へ → 戦場ではなく、戦争に翻弄される市民の視点で描かれた異色の戦争映画。
- イタリア映画の歴史を学びたい人へ → ネオレアリズモの原点として、映画表現の革命的な変化を知ることができる。
- 戦争のリアルを知りたい人へ → 戦後すぐに撮影されたため、実際の戦争の爪痕が映像として刻まれている。
作品の背景
『無防備都市』は、第二次世界大戦直後の混乱期に、戦時下のローマを生々しく描いた作品であり、イタリア・ネオレアリズモの原点とも言われています。本章では、本作が生まれた歴史的背景、ロッセリーニ監督の意図、そして撮影の舞台裏について詳しく解説します。
歴史的背景:ナチス占領下のローマとレジスタンス
① 1943年のイタリア降伏とナチス占領
- 1943年9月、イタリアは連合国に降伏し、ムッソリーニ政権は崩壊しました。
- しかし、ドイツ軍はすぐさま北イタリアを占領し、ムッソリーニを傀儡政権の首班に据えて統治を続けました(サロ共和国)。
- ローマもナチスの支配下に置かれ、厳しい弾圧が始まります。
② レジスタンスの活動
- ナチスの占領に対し、イタリアのレジスタンス(パルチザン)が各地で武装闘争を開始。
- 地下組織として活動し、ナチスの要人暗殺や通信施設の破壊などを行いました。
- しかし、ナチスは報復として一般市民を大量に処刑し、恐怖政治を展開しました。
③ 実際の出来事を基にした物語
- 本作に登場するドン・ピエトロ神父のモデルは、実在の司祭ジュゼッペ・モラリア。
- 彼はナチスの弾圧からレジスタンスを支援し、連合軍への情報提供を行った罪で処刑されました。
- そのため、本作はフィクションでありながら、当時のリアルな歴史を忠実に再現した作品と言えます。
ロベルト・ロッセリーニ監督の意図
① ネオレアリズモの誕生
- ロッセリーニ監督は、戦争の現実を美化するのではなく、ありのままの姿を描きたかった。
- そのため、スタジオ撮影を避け、戦後のローマの荒廃した街並みでゲリラ的にロケ撮影を行いました。
- この手法は後の「ネオレアリズモ(新写実主義)」の代表的なスタイルとなります。
② 戦争の英雄ではなく、市民の視点を描く
- それまでの戦争映画は、戦場の英雄や軍人を主役とするものが多かった。
- しかし、本作は「ナチスに支配された街で生きる市民の視点」で描かれています。
- これは戦争を単なる戦闘ではなく、市民が巻き込まれる巨大な悲劇として捉える視点を映画に持ち込む試みでした。
③ 即興的な撮影で「真実味」を追求
- 本作は、脚本が未完成のまま撮影が始まり、多くのシーンが即興で撮影されました。
- また、フィルムが不足していたため、短いシーンを撮り継ぎながら制作されるという手法が取られました。
- これが逆にドキュメンタリーのようなリアルな質感を生み出し、映画に独自の迫力を与えました。
撮影の舞台裏と困難
① フィルム不足の中での撮影
- 戦後の混乱で映画用フィルムは極端に不足しており、入手できたフィルムの断片をつなぎ合わせながら撮影が進められました。
- そのため、画質にばらつきがあり、細かく編集を行うことで映像を仕上げる必要がありました。
② 素人俳優とプロ俳優の共演
- 主人公のマンフレーディ役を演じたマルチェロ・パリエロは、実際にはプロの俳優ではなく、新聞記者でした。
- 一方で、ピーナを演じたアンナ・マニャーニはプロの女優であり、彼女の演技が映画全体に圧倒的なリアリズムをもたらしました。
③ ナチス役を演じた俳優の苦悩
- 本作では、ナチスのベルクマン少佐を演じたハリー・ファイストが、あまりにも冷酷な演技をしたため、実際にローマ市民から嫌がらせを受けたと言われています。
- 彼は撮影中、街を歩くたびに市民から罵声を浴びせられ、身の危険を感じたこともあったそうです。
作品が持つ文化的・社会的意義
① 映画が社会を記録する手段になった
- 本作は、戦争の爪痕が残るローマを「映画という形で記録した歴史的な資料」としての価値を持っています。
- 実際、現在でも本作を通じて当時のローマの様子を知ることができます。
② 「戦争映画」の概念を変えた
- 本作以前の戦争映画は、英雄的な戦闘シーンを描くものが主流でした。
- しかし、『無防備都市』は戦闘ではなく、戦争に翻弄される市民の姿を主題にし、戦争映画の新しいスタイルを確立しました。
③ その後の映画に与えた影響
- フランソワ・トリュフォー、フェデリコ・フェリーニ、マーティン・スコセッシといった巨匠たちは、本作を映画史のマイルストーンとして高く評価しています。
- 特に、マーティン・スコセッシは「『無防備都市』なくして現代映画は語れない」と語っています。

『無防備都市』は、戦争のリアルを映し出し、映画の新たな表現を切り開いた作品です。
ストーリー概要
『無防備都市』は、ナチス占領下のローマを舞台に、レジスタンス運動に関わる人々の苦闘を描いた作品です。
戦争の悲惨さと、それに抗う人々の勇気を、リアルな映像と迫真の演技で映し出しています。
主要なテーマと探求される問題
① 占領下の恐怖とレジスタンスの闘い
- ローマはドイツ軍に占領され、市民は厳しい弾圧を受けていました。
- そんな中、ナチスに対抗するレジスタンスたちは、密かに活動を続けていました。
- しかし、彼らは絶えず裏切りや密告の危険にさらされ、戦うことそのものが命がけでした。
② 戦争の犠牲となる市民たち
- 戦争は軍人だけでなく、何の罪もない市民にも容赦なく襲いかかる。
- 本作は、レジスタンスを支援する一般市民がどのような運命をたどるのかをリアルに描いています。
③ 信仰と正義の対立
- ナチスの圧政下で、人々は生きるために何を守り、何を捨てるのかという選択を迫られます。
- カトリック教会の神父でありながら、レジスタンスを支援するドン・ピエトロの行動は、信仰と正義の間で揺れ動く葛藤を象徴しています。
ストーリーの概要
第一幕:占領下のローマ
- 物語は1944年、ナチス占領下のローマから始まります。
- レジスタンスの指導者ジョルジオ・マンフレーディは、ナチスのゲシュタポに追われながらも、仲間とともに自由を求めて活動を続けています。
- 彼の同志である新聞記者フランチェスコとその婚約者ピーナ、そして彼らを支援するドン・ピエトロ神父が登場し、戦時下での市民の連帯と苦悩が描かれます。
第二幕:ピーナの悲劇
- ある日、ナチスはマンフレーディの居場所を突き止め、彼を逮捕しようとします。
- 彼の婚約者ピーナは、彼を助けようとするが、ナチスの兵士に射殺されてしまう。
- このシーンは、映画史に残る衝撃的な場面であり、戦争の無情さと女性の犠牲を象徴しています。
- ピーナ役を演じたアンナ・マニャーニの迫真の演技が、観る者の心を締め付けます。
第三幕:ドン・ピエトロ神父の信念
- 逮捕されたマンフレーディは、ナチスによる激しい拷問を受けます。
- 彼を助けようとしたドン・ピエトロ神父も捕らえられ、処刑されることが決まります。
- 彼は最後まで信念を曲げず、「人々のために祈ることが私の務めだ」と語り、処刑に臨みます。
クライマックス:希望の残る結末
- 物語は、ナチスに敗れたレジスタンスたちの苦悩と、彼らの勇気を讃えながら幕を閉じます。
- 戦争の悲劇を描きつつも、最後には「自由を求める戦いは終わらない」という希望が込められています。
視聴者が見逃せないシーンやテーマ
① ピーナの死の瞬間
- ピーナがナチスの兵士に撃たれるシーンは、本作を象徴する最も衝撃的な場面。
- 彼女が倒れる瞬間、群衆が沈黙する演出が、戦争の冷酷さを際立たせています。
② ナチスの拷問シーン
- レジスタンスのマンフレーディが拷問を受ける場面は、戦争の非道さをリアルに描いており、観る者に深い衝撃を与えます。
③ ドン・ピエトロ神父の処刑
- 彼の最期の言葉と、それを見守る少年たちの表情が、戦争の残酷さと希望の両方を象徴しています。

『無防備都市』は、戦争が市民に与える影響をリアルに描いた作品であり、単なるフィクションではなく、歴史的証言としての価値を持つ映画です。
作品の魅力と見どころ
『無防備都市』は、第二次世界大戦下のローマを舞台に、戦争に翻弄されながらも信念を貫く人々の姿を描いた傑作です。本章では、映画の特筆すべき演出や映像美、社会的テーマ、そして視聴者が注目すべきシーンについて詳しくご紹介します。
特筆すべき演出や映像美
① ネオレアリズモならではのリアルな映像
- 本作は、戦争の爪痕が生々しく残るローマの街並みをそのままロケ地として使用。
- スタジオ撮影では表現しきれない、崩壊した建物や戦争の傷跡が映画の背景となり、リアリズムを極限まで高めています。
- カメラワークもドキュメンタリー風で、まるで観客が戦時下のローマにタイムスリップしたかのような臨場感を味わえます。
② クローズアップと即興演技の迫真性
- 本作は、俳優の表情や仕草に焦点を当てたクローズアップが多用されています。
- 特に、アンナ・マニャーニ(ピーナ役)の絶望と怒りが交錯する表情は、観る者に強烈な印象を残します。
- 当時のフィルム不足の中、撮影は即興的に進められ、予測不能な緊張感が画面全体にみなぎっています。
社会的・文化的テーマの探求
① 「戦争における民間人の犠牲」
- これまでの戦争映画は、戦場での兵士の活躍を描くものが主流でした。
- しかし、本作は戦闘シーンをほとんど描かず、市民の視点から戦争の恐怖を描くことに重点を置いています。
- 戦争の犠牲になるのは軍人だけではなく、一般市民も同じように苦しむことを改めて考えさせられます。
② 信仰と正義の葛藤
- ドン・ピエトロ神父は、司祭としての立場を超えてレジスタンスを支援します。
- 彼の存在は、「戦争下で信仰を貫くことの難しさ」「善と悪の境界が揺らぐ状況」を象徴しています。
- 彼の最期は、「信念を持ち続けることの意味」について観客に深い問いを投げかけます。
③ 女性の強さと犠牲
- ピーナは、家庭を守るだけでなく、レジスタンスを支援し、危険を冒してでも愛する人を守ろうとします。
- 彼女の死は、戦争がもたらす非情な運命の象徴として、映画史に残る名シーンとなりました。
- その後、ピーナの息子が静かに歩き去るラストのシーンは、戦争が次世代にどんな影を落とすのかを示唆しています。
視聴者の心を打つシーンやテーマ
① ピーナの射殺シーン(戦争の無情さ)
- ピーナがナチスに連行されるフランチェスコを助けようとする場面。
- 銃声とともに彼女が路上に倒れ込む衝撃のシーンは、映画史上最も悲劇的な瞬間のひとつとして語り継がれています。
② レジスタンスの拷問シーン(ナチスの非道)
- マンフレーディがナチスによって拷問を受ける場面は、戦争の残虐性を生々しく描いています。
- 彼の苦しむ姿は、戦争がいかに非人道的であるかを強調し、観る者の胸を締めつけます。
③ ドン・ピエトロ神父の処刑(信念の貫き方)
- 彼は処刑直前まで仲間を鼓舞し、最後まで信仰を捨てません。
- その姿を少年たちが遠くから見つめるシーンは、「希望」と「戦争の残酷さ」の両方を象徴する名場面です。

『無防備都市』は、戦争映画でありながら、英雄ではなく普通の人々の苦悩を描いた異色の作品です。
視聴におすすめのタイミング
『無防備都市』は、戦争の悲劇とそれに抗う人々の姿を描いた歴史的傑作であり、観るタイミングによって深く心に響く作品です。本章では、本作を鑑賞するのに適したシチュエーションや、視聴時の心構えについてご紹介します。
このような時におすすめ
タイミング | 理由 |
---|---|
戦争と平和について考えたい時 | 本作は、戦争の恐怖と、それに立ち向かう市民の勇気を描いており、戦争の本質を深く考えさせられる作品です。 |
リアルな戦争映画を観たい時 | ネオレアリズモの手法によって、スタジオ撮影ではなく実際の戦後のローマで撮影され、圧倒的なリアリズムを持っています。 |
ネオレアリズモ映画を学びたい時 | 本作は、イタリア・ネオレアリズモの代表作のひとつであり、その特徴や影響を知る上で最適な作品です。 |
イタリア映画の名作に触れたい時 | 『無防備都市』は、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、世界的に高く評価されるイタリア映画の金字塔です。 |
社会問題や人権について考えたい時 | 本作は、戦争における民間人の犠牲や、人権の侵害、抵抗の精神を強く訴えかけます。 |
視聴する際の心構えや準備
心構え | 準備するもの |
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映画のリアリズムに没入する | フィルムの荒さや即興的な演技が特徴なので、ドキュメンタリーのような感覚で観るとより深く理解できます。 |
戦争の残酷さを直視する | 本作は、戦争の悲劇をリアルに描いており、衝撃的なシーンが多いため、感情移入しすぎないよう心構えをしておくと良いでしょう。 |
当時の歴史を学んでおく | 1944年のローマの状況や、ナチス占領下のイタリアについて知っておくと、物語の背景がより明確になります。 |
登場人物の心理を読み取る | セリフが少ない場面でも、表情や仕草に込められた感情を汲み取ると、物語の奥深さが感じられます。 |
鑑賞後に感想を共有する | 戦争や人間ドラマについて考えさせられる作品なので、観た後に誰かと議論すると理解が深まります。 |

『無防備都市』は、ただの戦争映画ではなく、戦争に巻き込まれる一般市民の苦しみと、それでも希望を失わない人々の姿を描いた作品です。
作品の裏話やトリビア
『無防備都市』は、戦後間もない混乱の中で生まれた作品であり、その制作過程には数々の困難と驚くべきエピソードが秘められています。本章では、映画の制作背景、出演者のエピソード、そして視聴者が見落としがちなポイントについて詳しくご紹介します。
制作の背景
① 予算不足とゲリラ撮影
- 第二次世界大戦終結直後のイタリアでは、映画産業は壊滅的な状態にありました。
- そのため、ロッセリーニ監督は限られた予算で撮影を行わざるを得ず、フィルムの入手も困難でした。
- フィルムの断片を集めて撮影し、編集することで一本の映画に仕上げるという、まさに職人技のような作業が行われました。
② 実際のローマ市民をエキストラとして起用
- 本作には、プロの俳優だけでなく、実際のローマ市民もエキストラとして多数出演しています。
- 彼らのリアルな表情や振る舞いが、映画のドキュメンタリー的な雰囲気を一層強めています。
③ ネオレアリズモの確立
- 『無防備都市』は、イタリア・ネオレアリズモの代表作として知られていますが、実はこの映画がネオレアリズモの先駆けとなった作品でした。
- それまでの映画とは異なり、スタジオではなく実際の街中で撮影し、即興的な演技を取り入れることで、戦争のリアルをそのまま映像に残すというスタイルを確立しました。
出演者のエピソード
① アンナ・マニャーニの迫真の演技
- ピーナ役を演じたアンナ・マニャーニの死のシーンは、映画史に残る名場面の一つです。
- 実はこのシーン、マニャーニは本番前にテイクを重ねすぎて体力を消耗していたため、撮影時には疲労の極致にありました。
- しかし、その疲労感がリアルな絶望の表情を生み出し、結果的に映画史に残る名演技となりました。
② ドン・ピエトロ神父のモデルは実在の司祭
- 本作のドン・ピエトロ神父のモデルは、実在した司祭ジュゼッペ・モラリア神父。
- 彼は実際にローマでレジスタンスを支援し、ナチスによって捕らえられ、1944年に処刑されました。
- そのため、映画のラストシーンはフィクションでありながら、実際の出来事に極めて近い内容となっています。
視聴者が見落としがちなポイント
① 映像の粗さが生むリアリズム
- フィルム不足のため、本作の映像は他の映画と比べて荒削りで、編集も粗い部分があります。
- しかし、それが逆に戦争の緊張感やリアルな空気を伝える効果を生み出しています。
- まるでドキュメンタリー映画を観ているかのような臨場感を楽しんでください。
② ナチスの拷問シーンの演出
- 本作では、直接的な暴力シーンは少ないものの、拷問の場面では音と演技だけで観客に恐怖を伝えています。
- 映像としては映らない「見えない恐怖」を演出することで、より強いインパクトを与える工夫がされています。
③ 子供たちの存在が示す希望
- 物語のラストで、ドン・ピエトロ神父の処刑を見届けた少年たちが静かに歩き去るシーン。
- これは単なる悲劇ではなく、戦争を経験した子供たちが未来を担うことを示唆する象徴的な場面です。
- 戦争の絶望を描きながらも、未来への希望を残すという、ロッセリーニ監督の演出意図が感じられます。

『無防備都市』は、極限状態の中で撮影され、リアルな戦争の記録として歴史に刻まれた映画です。
締めくくりに
『無防備都市』は、戦争映画の概念を塗り替え、映画史に新たな道を切り開いた作品です。
戦争のリアリズムを追求し、ローマ市民の視点から占領下の恐怖と抵抗の精神を描いた本作は、単なるフィクションではなく、戦争の歴史的証言としての価値を持っています。
映画から学べること
① 戦争の恐怖と人々の勇気
- 本作は、戦争の悲惨さを前線の兵士ではなく、戦火に巻き込まれる市民の視点で描いています。
- その中で、市民がレジスタンスとして立ち上がる姿は、戦争の中での人間の強さと希望を示しています。
② 映画が持つ「記録」としての価値
- 戦後すぐに撮影された本作は、占領下のローマのリアルな姿を記録した歴史的資料としての価値も持っています。
- 現代の視点から観ても、70年以上前の戦争の実態を生々しく感じることができます。
③ ネオレアリズモが映画史に与えた影響
- 本作は、イタリア・ネオレアリズモの代表作として、後の映画に大きな影響を与えました。
- 例えば、フランスのヌーヴェルヴァーグ(ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォー)や、アメリカのマーティン・スコセッシらの作品にも本作の影響が見られます。
視聴体験の価値
『無防備都市』は、観る者に強烈な印象を与え、戦争とは何か、平和とは何かを考えさせる映画です。
その視聴体験は、単なる娯楽ではなく、歴史を振り返り、未来を見つめる時間となるでしょう。
- 戦争映画が好きな人へ → 従来の戦争映画とは異なる、市民の視点からの戦争を体験できます。
- 映画史を学びたい人へ → ネオレアリズモの原点として、映画表現の革命を知ることができます。
- 社会問題に関心がある人へ → 戦争が市民にどのような影響を及ぼすのかをリアルに描いた作品です。
最後に
親愛なる映画ファンの皆様、『無防備都市』鑑賞ガイドを最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、戦争の恐怖と人間の尊厳をリアルに描いた、歴史的にも映画史的にも価値のある作品です。
ワインに例えるなら、それは決して華やかではないが、深く魂に刻まれる一本。
飲むたびに新たな味わいが感じられ、その奥深さに何度も考えさせられるような作品です。
この映画を通じて、過去の戦争を振り返り、未来への平和について考えるきっかけとなれば幸いです。
それでは、また次回の映画鑑賞ガイドでお会いしましょう。
素晴らしい映画との出会いを楽しんでください!
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