親愛なる映画ファンの皆様、こんにちは。歴史映画ソムリエのマルセルです。
本日ご紹介するのは、映画史上最も革新的でありながら、最も物議を醸した作品の一つ、『國民の創生』(1915)です。
本作は、映画の父と称されるD・W・グリフィス監督が手掛けた南北戦争とその後のレコンストラクション(南部再建)を描いた歴史映画です。上映時間は驚異の3時間15分。当時としては未曾有のスケールで制作され、映画技法の発展に大きな影響を与えました。
しかし、その内容は極めて論争的です。本作は、クー・クラックス・クラン(KKK)を英雄的に描き、アフリカ系アメリカ人を差別的に表現していることから、公開当時から現在に至るまで激しい批判に晒されています。それにもかかわらず、映画史において本作が果たした役割は計り知れません。
なぜなら、本作は映画技法の発展において革命的な作品だからです。
- クロスカッティング(並行編集)を駆使し、複数の物語を同時に進行させる手法を確立。
- クローズアップやロングショットの組み合わせによって、映画表現に奥行きを与えた。
- 当時の映画としては未曾有の大規模な戦闘シーンや群衆シーンを撮影。
これらの技術は、その後の映画製作の基礎となり、後の巨匠たちにも大きな影響を与えました。
しかし、映像技法が革新的であった一方で、その内容は極めて問題視されるものであり、映画が持つ「表現の力」と「社会的責任」の両面を考えさせる作品でもあります。本作を観ることは、単なる歴史映画の鑑賞ではなく、映画というメディアの力と、その影響の大きさについて深く考える機会となるでしょう。
作品基本情報
項目 | 情報 |
---|---|
タイトル | 國民の創生 |
原題 | The Birth of a Nation |
製作年 | 1915年 |
製作国 | アメリカ |
監督 | D・W・グリフィス |
主要キャスト | リリアン・ギッシュ、メイ・マーシュ、ヘンリー・B・ウォルソール、ミリアム・クーパー、ジョージ・シーグマン |
ジャンル | 歴史、ドラマ、戦争 |
上映時間 | 約195分(3時間15分) |
評価 | IMDb:6.1/10、Rotten Tomatoes: 91% |
物語の魅力と論争的要素
① 革新的な映画技術
『國民の創生』は、映画史における技術革新の一里塚とされる作品です。
- **クロスカッティング(並行編集)**を駆使し、複数の物語をスリリングに交差させた。
- クローズアップやロングショットを適切に配置し、映画の視覚的な語り口を飛躍的に発展させた。
- 大規模な戦闘シーンや群衆シーンをリアルに描き、映画のスケールを拡張した。
② 物議を醸すストーリー
しかし、本作の内容は極めて問題のある歴史観に基づいています。
- 南北戦争とレコンストラクション(南部再建)の時代を描くが、南部白人の視点に極端に偏ったストーリー。
- アフリカ系アメリカ人を否定的に描き、クー・クラックス・クラン(KKK)を英雄視する表現が含まれる。
- 公開当時、NAACP(全米黒人地位向上協会)をはじめとする多くの団体が抗議を行ったが、一部の州では上映が禁止されることもあった。
視聴体験の価値
本作は、映画技術の歴史を学ぶ上で避けて通れない作品ですが、その一方で、人種差別的な描写を批判的に捉える視点が必要不可欠です。
- 映画史に興味がある人:初期映画における革新を知ることができる。
- 社会問題に関心がある人:映画がどのように社会的影響を与えるのかを考える材料となる。
- 歴史を学びたい人:南北戦争後のアメリカにおける白人至上主義の浸透を理解するための資料としても興味深い。
作品の背景
『國民の創生』は、映画技術の革新とともに、人種差別的な歴史観を持つ作品として、映画史上最大の論争を生んだ映画の一つです。本章では、本作が製作された歴史的背景や、D・W・グリフィス監督が本作に込めた意図、そして公開当時の社会的な影響について詳しく解説します。
歴史的背景:南北戦争とレコンストラクション(南部再建)
① 南北戦争(1861〜1865年)
- 本作は、**南北戦争(1861〜1865年)**を背景に、アメリカ合衆国が南北に分かれて戦った時代を描いています。
- **北部(連邦派)**は奴隷制の廃止と連邦の維持を掲げ、**南部(連合派)**は奴隷制度を維持しつつ独立を目指しました。
- 最終的に北軍が勝利し、アメリカ全土で奴隷制が廃止されましたが、その後の「レコンストラクション(南部再建)」の時代に南部白人の不満が高まり、黒人差別と白人至上主義の台頭が起こりました。
② クー・クラックス・クラン(KKK)と白人至上主義
- 本作では、KKKを**「南部の秩序を守る英雄」として描いている**ことが最大の問題点とされています。
- 実際のKKKは、黒人や北部派を暴力的に弾圧し、人種差別と排外主義を掲げた極右組織でした。
- 1915年の公開当時、KKKは一度衰退していましたが、本作の影響で1920年代に再興し、黒人への弾圧が激化しました。
D・W・グリフィス監督と本作の制作意図
① グリフィス監督の狙い
- D・W・グリフィスは、映画を芸術として確立しようとした監督の一人であり、本作では革新的な映画技法を多数導入しました。
- しかし、彼の家系は南部出身であり、彼自身が南部の歴史観(いわゆる「失われた大義(Lost Cause)」思想)を持っていたため、作品の内容も南部寄りとなりました。
- 彼は、「映画を通じてアメリカの歴史を伝えたい」と考えていましたが、結果的に歴史を歪曲し、黒人差別を助長する作品になってしまったのです。
② 原作『クランズマン』と人種差別
- 本作の原作は、トーマス・ディクソン・Jr.による**『クランズマン(The Clansman)』**という小説です。
- ディクソンは南部の白人至上主義者であり、小説自体が黒人差別的なプロパガンダとして書かれています。
- グリフィス監督は、この小説を基に映画を制作し、KKKを「アメリカを救った英雄」として描きました。
公開当時の社会的影響と論争
① 全米での成功と賛否両論
- 『國民の創生』は、当時としては異例の大ヒットを記録し、全米各地で上映されました。
- ウッドロウ・ウィルソン大統領(当時)は、本作をホワイトハウスで上映し、「まるで稲妻のように、歴史を光で書き記した」と称賛したと言われています(※後にこの発言は否定された)。
- しかし、アフリカ系アメリカ人の団体や市民権運動家たちは強く反発し、多くの都市で上映禁止運動や抗議デモが起こりました。
② NAACP(全米黒人地位向上協会)の抗議
- **NAACP(National Association for the Advancement of Colored People)**は、本作の上映に対して強い抗議を行いました。
- 彼らは「黒人に対する暴力を助長し、人種差別を正当化する危険な映画」だと非難し、いくつかの州では本作の上映が禁止されました。
- しかし、映画の影響力は強く、本作の公開後、KKKの活動が再び活発化したと言われています。
③ KKKの復活と映画の影響
- 1915年、本作の影響を受けた白人至上主義者が、ジョージア州でクー・クラックス・クラン(第二次KKK)を再興しました。
- 彼らは映画を**「自分たちの理念を正当化する作品」**とし、映画館の外でリクルート活動を行いました。
- その結果、1920年代にはKKKの会員数が400万人以上に増加し、黒人への暴力やリンチが急増しました。
作品が持つ文化的・社会的意義
① 映画技術の発展への貢献
- 『國民の創生』は、映画技法の面では画期的な作品であり、映画を「単なる娯楽」から「芸術・歴史を伝える媒体」へと押し上げた作品でした。
- その影響は、後の映画監督たち(セルゲイ・エイゼンシュテイン、オーソン・ウェルズなど)にも大きな影響を与えています。
② 映画の「責任」を考えさせる作品
- 本作は、映画が社会に与える影響の大きさを示した作品でもあります。
- もし映画が偏った歴史観を持っていた場合、それが世間に広まり、多くの人々に誤った歴史認識を植え付けてしまう危険性を示しています。
- そのため、『國民の創生』は、「映画が持つ社会的責任について考えるための重要な作品」としても位置付けられています。

『國民の創生』は、映画史において最も偉大であり、最も危険な作品の一つです。
ストーリー概要
『國民の創生』は、南北戦争とその後のレコンストラクション(南部再建)時代を舞台に、2つの家族の物語を中心に展開されます。物語は、**キャメロン家(南部)とストーンマン家(北部)**の視点から進行し、南北戦争による悲劇と社会の混乱、そしてその後の白人至上主義の再興を描いています。
主要なテーマと探求される問題
① 南北戦争の悲劇
- 映画は、戦争によって引き裂かれた家族や、戦場で失われる命を描き、戦争の悲劇を強調しています。
- 一方で、南部の視点に偏っており、北部(連邦派)の行動を侵略的に描いている点に注意が必要です。
② 白人至上主義の正当化
- 本作は、南部の「失われた大義(Lost Cause)」思想に基づいており、クー・クラックス・クラン(KKK)を英雄視する描写が含まれています。
- そのため、映画が提示する「正義」や「道徳観」は、今日の視点から見ると極めて問題があります。
③ 戦争による社会崩壊と再建の困難さ
- 南部再建期の混乱を描きながらも、本作では黒人の権利拡大を社会の秩序を脅かすものとして描いているため、歴史的に誤った視点を提供しています。
ストーリーの概要
第一部:南北戦争(1861〜1865年)
- キャメロン家(南部)とストーンマン家(北部)は、南北戦争が勃発する前は友好的な関係にありました。
- 戦争が始まると、キャメロン家の息子たちは南軍に、ストーンマン家の息子は北軍に加わり、両家は戦争によって引き裂かれます。
- 戦争は過酷を極め、多くの兵士たちが命を落とします。キャメロン家の息子の一人であるベンは、エルシー・ストーンマンとの出会いを通じて、家族を超えた人間関係を築きます。
第二部:レコンストラクション(南部再建期)
- 南北戦争が終結し、アメリカ全土で奴隷制が廃止されます。
- 北部の政治家たちは、黒人たちに選挙権を与え、南部を再建しようとしますが、映画ではこれが**「黒人による暴力と支配」**として描かれています。
- キャメロン家は黒人の政治的台頭と暴力に苦しみ、ベン・キャメロンは「秩序を取り戻すため」に、クー・クラックス・クラン(KKK)を結成します。
クライマックス:KKKの「勝利」
- 映画のクライマックスでは、KKKが武力行使によって南部の秩序を回復する姿が描かれます。
- 映画は、KKKを「南部を救った英雄的な存在」として美化しており、黒人たちを暴力的で野蛮な存在として描いています。
- 最終的に、キャメロン家とストーンマン家は和解し、南部の再建が完了したことが示されます。
視聴者が見逃せないシーンやテーマ
① 戦闘シーンと群衆シーン
- 本作では、大規模な戦闘シーンや群衆シーンが多数描かれており、これらは映画技術の革新を示す象徴的な場面です。
- クロスカッティング(並行編集)が使用されており、複数の場面が同時進行することで緊張感が高まっています。
② クローズアップと視覚的物語表現
- 映画では、キャラクターの感情を強調するためにクローズアップが効果的に使用されています。
- これは、当時の映画では珍しい技法であり、映画表現の可能性を広げたと言われています。
③ 問題のあるナラティブ
- 本作は、KKKを英雄視し、黒人を否定的に描くという極めて偏った視点を持っています。
- 観る際には、この点を批判的に捉え、映画が歴史をどのように再構築しているのかを考えることが重要です。

『國民の創生』は、映画史において革新的な作品であると同時に、極めて論争的な作品でもあります。
作品の魅力と見どころ
『國民の創生』は、映画技術の革新と同時に、極めて論争的な内容を持つ作品です。本章では、本作の技術的な魅力、演出の特徴、そして視聴者が注目すべきポイントについて解説していきます。
特筆すべき演出や映像美
① クロスカッティング(並行編集)による緊張感の演出
- 本作で最も革新的な技法のひとつが、**クロスカッティング(並行編集)**です。
- 例えば、KKKが「白人女性を救うために」黒人の脅威と戦う場面では、異なる場所での出来事が交互に映し出され、緊張感を高める構成になっています。
- これは現代映画にも受け継がれており、サスペンス映画やアクション映画の定番技法として使用されています。
② クローズアップの活用
- 映画がサイレント時代であったため、表情の演技が非常に重要視されていました。
- グリフィスは、登場人物の感情を強調するために、**当時の映画では珍しかったクローズアップ(顔のアップ)**を多用しました。
- これにより、観客はキャラクターの心理に深く入り込むことができるようになりました。
③ 大規模な戦闘シーンと群衆の動き
- 本作の南北戦争の戦闘シーンは、数百人のエキストラを動員し、当時としては画期的な映像表現を実現しています。
- カメラの動きを工夫することで、戦場のスケール感を強調し、戦争の混乱や悲劇を視覚的に伝えています。
- 群衆シーンの演出も素晴らしく、後のハリウッド映画に大きな影響を与えました。
社会的・文化的テーマの探求
① 映画の「歴史を語る力」とその危険性
- 『國民の創生』は、映画が歴史をどのように再構築できるかを示した最初の作品のひとつです。
- しかし、その描写は白人至上主義的な観点に偏っており、歴史を歪めた影響も大きいことから、「映画の責任」について考えさせられる作品でもあります。
② 「南部の悲劇」としての物語構造
- 本作は、南部の白人を被害者として描く「失われた大義(Lost Cause)」の物語構造を取っています。
- これは、実際の歴史とは異なる視点を提供しており、観客がどのように歴史を受け取るかを左右する要因となりました。
③ 黒人の描かれ方とその影響
- 本作の最大の問題点は、黒人を否定的に描き、KKKを英雄視していることです。
- これは当時のアメリカ社会における人種差別の意識を助長し、KKKの復活に影響を与えたとも言われています。
- そのため、本作を観る際には「歴史のプロパガンダとしての映画」という視点を持つことが重要です。
視聴者の心を打つシーンやテーマ
① 南北戦争の戦闘シーン
- 本作の戦闘シーンは、リアルな演出と大規模なエキストラを活用した圧巻の映像です。
- 兵士たちの動き、カメラワーク、緊迫感のある構成は、後の戦争映画の基礎を築きました。
② レコンストラクション時代の混乱
- 映画では、黒人が権力を握ったことで南部が「無秩序に陥る」という描写がなされますが、これは歴史的に誤った視点です。
- しかし、映画的には「社会の崩壊」を描くドラマとして、当時の観客に強い衝撃を与えました。
③ KKKの登場とクライマックスの救出劇
- 本作の最も論争的なシーンのひとつが、KKKが「正義の味方」として登場し、南部の秩序を回復するクライマックスです。
- ここでグリフィスは、並行編集を駆使して、「黒人の脅威」と「KKKの英雄的な行動」を対比させる演出を行っています。
- しかし、この場面は現代の視点から見れば、明らかな歴史の歪曲と人種差別的プロパガンダとして機能していることが分かります。

『國民の創生』は、映画技法の革新と、歴史のプロパガンダという両面を持つ作品です。
視聴におすすめのタイミング
『國民の創生』は、映画史における重要な作品であると同時に、その内容が極めて論争的な映画です。
そのため、観る際には適切なタイミングと心構えが必要です。本章では、どのような場面で本作を鑑賞すべきか、そして視聴時に意識すべきポイントについて解説します。
このような時におすすめ
タイミング | 理由 |
---|---|
映画史の学習を深めたい時 | 本作は映画技術の革新を示す作品のひとつであり、映画の進化を学ぶ上で避けて通れない。 |
映像が持つ影響力について考えたい時 | 本作は、映画が歴史や社会にどのような影響を与えるかを考える上で、重要な事例である。 |
南北戦争とアメリカの歴史を学ぶ機会として | 歴史的な背景を知ることで、本作の描く「歴史の歪曲」や「プロパガンダ」としての側面を理解できる。 |
プロパガンダ映画の研究をしたい時 | 本作は、特定の視点を強調する映画が社会に与える影響を考察する格好の研究対象となる。 |
批判的視点で映画を観るトレーニングをしたい時 | 本作を鑑賞することで、「映画が持つ意図」を分析し、内容をそのまま受け取らずに考える力を養うことができる。 |
視聴する際の心構えや準備
心構え | 準備するもの |
---|---|
映画の技術的側面と社会的影響の両面を意識する | 技術的には画期的な作品だが、その内容は差別的であり、歴史的背景を踏まえて観る必要がある。 |
歴史の正しい知識を持っておく | 南北戦争やレコンストラクション期の実際の出来事について調べ、本作の歪んだ視点に流されないようにする。 |
批判的な視点を持って鑑賞する | 「映画の視点はどこに偏っているか」「どのようなメッセージが込められているか」を意識しながら観る。 |
現代の価値観との違いを理解する | 本作の描写が現代の価値観とは大きく異なることを認識し、歴史的な文脈で評価する。 |
鑑賞後にディスカッションする | 一人で観るよりも、映画史や人種問題に詳しい人と議論することで、より深い理解につながる。 |

『國民の創生』は、映画の持つ力と危険性を同時に示した作品です。
作品の裏話やトリビア
『國民の創生』は、映画史において革新的な技術を導入した一方で、社会的には大きな論争を引き起こした作品です。本章では、本作の制作背景、知られざるエピソード、そして視聴者が見落としがちなポイントについて掘り下げていきます。
制作の背景
① 史上初の「長編映画」としての挑戦
- 1915年当時、映画は10〜20分程度の短編が主流でした。
- 『國民の創生』は、当時としては異例の195分(3時間15分)という長編映画であり、映画が「総合芸術」として成立することを証明しました。
- グリフィスは、本作を「観客を映画館に引き込むための叙事詩」として企画し、その試みは大成功を収めました。
② 膨大な製作費と興行成績
- 当初の製作費は約11万ドル(現在の価値で数百万ドル相当)と、当時としては破格の金額でした。
- しかし、映画の興行収入は5000万ドル以上に達し、映画史上初めて「大ヒット映画」となった作品の一つとなりました。
③ 「初めてホワイトハウスで上映された映画」
- 当時のウッドロウ・ウィルソン大統領は、本作をホワイトハウスで鑑賞しました。
- 彼が映画を観た後、「これは雷のように、歴史を光で書き記した作品だ」と称賛したとされています。
- しかし、ウィルソン大統領がこの映画の人種差別的な内容を支持していたかどうかは議論が分かれています(後にこの発言は否定されたという説もある)。
出演者と撮影にまつわるエピソード
① 黒人役を白人俳優が演じていた
- 当時、ハリウッドでは黒人俳優を主要キャストに起用することがほぼなかったため、本作の黒人キャラクターはすべて白人俳優が「ブラックフェイス」(顔を黒く塗るメイク)をして演じました。
- これは、当時のアメリカ社会における人種差別的な慣習を象徴するものとして、現在では批判されています。
② リリアン・ギッシュのキャスティング
- 本作のヒロインであるエルシー・ストーンマン役のリリアン・ギッシュは、グリフィス監督のミューズとして知られ、サイレント映画のスターでした。
- 彼女はその後も多くの映画に出演し、1980年代まで映画界で活躍しました。
③ 撮影現場での大規模なセットとエキストラ
- 南北戦争の戦闘シーンは、当時としては異例の数百人規模のエキストラを動員して撮影されました。
- グリフィスは、撮影現場に軍事顧問を招き、リアルな戦争描写を追求しました。
視聴者が見落としがちなポイント
① 映像技術の進化が見られるシーン
- クロスカッティング(並行編集)が駆使された場面では、複数のストーリーが同時進行し、クライマックスへと向かう緊迫感を演出しています。
- 戦争シーンでは、ロングショットとクローズアップを組み合わせることで、映像に奥行きを持たせています。
② KKKの描かれ方の違和感
- KKKが「南部の平和を取り戻す英雄」として描かれ、彼らの登場シーンでは荘厳な音楽が流れる演出がされています。
- これは歴史的事実と大きく異なり、本作が「映画による歴史の歪曲」の代表例として批判される理由の一つです。
③ 映画がアメリカ社会に与えた影響
- 本作の公開後、1915年にクー・クラックス・クラン(KKK)が再興されました。
- KKKは、本作をプロパガンダとして利用し、新たな会員獲得の手段として上映会を開催しました。
- その結果、1920年代にはKKKの会員数が400万人以上に達し、黒人への暴力行為が急増しました。

『國民の創生』は、映画史における技術革新の金字塔でありながら、極めて危険な思想を内包した作品でもあります。
締めくくりに
『國民の創生』は、映画史において極めて重要な作品でありながら、その内容が深刻な論争を生んだ、「偉大さ」と「危険性」が同居する映画史上稀有な作品です。
本作は、映画の技術革新の象徴として評価される一方で、白人至上主義のプロパガンダ映画として強い批判を受けています。そのため、本作を観ることは、映画の力と責任について考える貴重な機会でもあります。
映画から学べること
① 映画が持つ「影響力」の大きさ
- 映画は単なる娯楽ではなく、社会や政治に影響を与える強力なメディアであることを示した作品です。
- 本作が公開されたことで、KKKが再興し、アメリカにおける人種差別がさらに悪化したという事実は、映画の影響力の大きさを痛感させます。
- その一方で、映画技法の進化を促し、後の映画産業の発展に貢献した点は無視できません。
② 「歴史を誰が語るのか」という問題
- 本作は南部の視点から南北戦争とレコンストラクション(南部再建)を描いていますが、その内容は歴史を意図的に歪めたものです。
- そのため、本作を鑑賞する際には、「この映画はどの視点から語られているのか?」「描かれていない歴史的事実は何か?」という批判的な視点を持つことが重要です。
- これは、現代の映画を観る際にも応用できる視点であり、「映画が見せる歴史が必ずしも真実とは限らない」という認識を持つことが求められます。
③ 映画の社会的責任について考える
- 『國民の創生』のように、一部の思想を美化し、他者を貶める内容の映画は、強い影響を与えることができます。
- そのため、映画製作者には社会的責任が伴い、観客側も「受け取る情報をそのまま信じるのではなく、批判的に考える姿勢」が求められます。
- 現代の映画産業においても、歴史を題材とした作品がどのような意図で作られているのかを見極めることが重要です。
視聴体験の価値
『國民の創生』は、映画の進化と影響力の大きさを知るための重要な教材です。
しかし、その内容が持つ問題点を十分に理解し、単なる「名作」として受け入れるのではなく、「批判的な視点」で観ることが不可欠です。
- 映画史を学びたい人へ → 本作の技術革新は、後の映画産業の発展に大きく貢献しました。その点では観る価値があります。
- 歴史を学びたい人へ → 映画が歴史をどのように再構築し、時には歪めてしまうのかを理解する機会になります。
- 社会問題に関心がある人へ → 本作の影響でKKKが復活したことから、映画が持つ社会的影響力を考えることができます。
最後に
親愛なる映画ファンの皆様、『國民の創生』鑑賞ガイドを最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、単なる「古典映画」として観るのではなく、映画の影響力、歴史の語られ方、そして社会的責任について考える作品として向き合うべき映画です。
ワインに例えるなら、それは長い熟成を経て、歴史的価値は高いが、強い毒を含む一本。
味わうには慎重さが求められ、その影響をしっかりと理解したうえで飲み干さなければなりません。
本作を鑑賞する際は、技術革新の視点と批判的な視点の両方を持つことを忘れずに。
そして、この映画が社会に与えた影響について、ぜひ考えを深めてみてください。
それでは、また次回の映画鑑賞ガイドでお会いしましょう。
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