セルゲイ・M・エイゼンシュテイン『アレクサンドル・ネフスキー』(1938)無料視聴ガイド:氷上の戦いが描くロシアの魂と不屈の英雄

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中世

親愛なる映画ファンの皆様、こんにちは。歴史映画ソムリエのマルセルです。本日ご紹介するのは、ロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキーの活躍を描いた、セルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督による歴史大作『アレクサンドル・ネフスキー』(1938)です。

本作は、13世紀のロシアを舞台に、ドイツ騎士団の侵攻に立ち向かう若き将軍アレクサンドル・ネフスキーの奮闘を描いた壮大な戦争叙事詩です。物語のクライマックスとなる「氷上の戦い」は、映画史上最も象徴的な戦闘シーンの一つとして語り継がれています。

監督は、『戦艦ポチョムキン』で知られるセルゲイ・M・エイゼンシュテイン。本作では、彼の得意とするモンタージュ技法が駆使され、ダイナミックな戦闘シーンと緻密な心理描写が融合しています。さらに、音楽はセルゲイ・プロコフィエフが担当し、荘厳なスコアが映像と見事に調和することで、歴史の壮大さを音でも体感できる仕上がりとなっています。

1938年の公開当時、ソ連とドイツの関係は緊張の度合いを増しており、本作はスターリン政権のもとで反ドイツ的なプロパガンダ映画としての役割も果たしました。しかし、それを超えて本作は、「愛国心」「団結」「正義の勝利」といった普遍的なテーマを描いた作品として、今なお高い評価を受けています。

英雄ネフスキーは、果たしてどのようにして侵略者を撃退し、ロシアの未来を守ったのか?その壮大なドラマを、ぜひじっくりとご堪能ください。次章では、本作の基本情報を詳しくご紹介します。お楽しみに!

作品基本情報

項目情報
タイトルアレクサンドル・ネフスキー
原題Александр Невский
製作年1938年
製作国ソビエト連邦
監督セルゲイ・M・エイゼンシュテイン
主要キャストニコライ・チェルカーソフ、ニコライ・オフロプコフ、アレクサンドル・アブリコーソフ、ヴェラ・イワシェワ、アンナ・ダニロワ
ジャンル歴史、戦争、ドラマ
上映時間112分
評価IMDb:7.5/10、Rotten Tomatoes: 91%

『アレクサンドル・ネフスキー』は、13世紀のロシアに実在した英雄ネフスキーの活躍を描いた歴史叙事詩です。彼は、ロシアに侵攻するドイツ騎士団に立ち向かい、「氷上の戦い」として知られる戦闘で敵軍を撃破します。

映画は、英雄的な戦いのドラマと同時に、侵略に対するロシアの団結や、正義の勝利というテーマを強く打ち出しています。また、戦争映画としての迫力に加え、プロコフィエフの壮大な音楽が映像と一体化し、映画史に残る芸術作品としても高く評価されています。

本作は、単なる戦争映画ではなく、映像と音楽が見事に融合した芸術作品でもあります。エイゼンシュテインのダイナミックな映像表現とプロコフィエフのドラマティックなスコアが、歴史の壮大さと戦いの迫力を極限まで引き出しています。

作品の背景

『アレクサンドル・ネフスキー』は、単なる歴史映画ではなく、ソビエト連邦の政治的な意図を反映したプロパガンダ映画としての側面も持つ作品です。本章では、映画の歴史的背景、制作の舞台裏、そして作品が持つ文化的・社会的意義について詳しく掘り下げていきます。

歴史的背景とその時代の状況

① 13世紀のロシアとアレクサンドル・ネフスキー

映画の舞台は、13世紀のロシア(当時は「ルーシ」と呼ばれていた)です。この時代、ロシアは東からのモンゴル帝国(タタール)による圧迫を受けつつ、西からはローマ・カトリックの勢力(ドイツ騎士団やスウェーデン軍)の侵攻にも直面していました。

アレクサンドル・ネフスキー(1221-1263)は、当時のノヴゴロド公国の指導者として、西方の侵略に対抗し、1240年にはスウェーデン軍をネヴァ川の戦いで撃破、1242年には有名な「氷上の戦い」でドイツ騎士団を破りました。彼の功績により、ネフスキーはロシアの国民的英雄として今も崇められています。

② 1930年代のソ連とナチス・ドイツの脅威

『アレクサンドル・ネフスキー』が制作された1938年当時、ソビエト連邦はナチス・ドイツとの関係が悪化していました。スターリン政権は、ドイツの脅威に対抗するために、国民の愛国心を高める必要がありました。本作は、13世紀のドイツ騎士団を敵として描くことで、当時のナチス・ドイツへの対抗意識を高める役割を果たしました。

映画公開後、ソ連はドイツと「独ソ不可侵条約」(1939年)を締結し、一時的に関係を修復しました。そのため、映画は一時的に上映禁止となりました。しかし、1941年にドイツがソ連に侵攻(独ソ戦開戦)すると、映画は再び上映され、国民の士気を鼓舞する作品として広く利用されました。

作品制作の経緯や舞台裏

① セルゲイ・M・エイゼンシュテインの復帰作

エイゼンシュテイン監督は、『戦艦ポチョムキン』(1925)や『十月』(1927)などで成功を収めたものの、1930年代にハリウッドへ渡った後、スターリン政権からの信頼を失い、一時期は冷遇されていました。しかし、『アレクサンドル・ネフスキー』の制作を命じられたことで、彼はソ連映画界に復帰することができました。

本作では、彼の得意とするモンタージュ技法(異なるカットをつなぎ合わせて視覚的・感情的な効果を生む編集手法)が存分に発揮されており、特にクライマックスの「氷上の戦い」ではその手法が最大限に活用されています。

② 撮影技術と特殊効果

本作の戦闘シーンは、当時としては革新的な映像技術が使われています。

  • 氷上の戦いのリアリズム
    • 実際に湖の上で撮影されたわけではなく、人工の氷とセットを使用し、破壊される氷の部分は事前に計算されていました。
    • 騎士たちが氷の割れ目に落ちていくシーンは、リアルな水中撮影と組み合わせて作られました。
  • ドイツ騎士団の演出
    • 彼らの姿は、当時のナチス・ドイツを連想させるようなデザインになっています。特に、兜の形状や黒い衣装は、ナチスのSS部隊を彷彿とさせます。

作品が持つ文化的・社会的意義

① ロシアの愛国精神の象徴

『アレクサンドル・ネフスキー』は、ロシアの独立を守る英雄の物語として、今もなお愛され続けています。彼の戦いは、「侵略者に立ち向かうロシアの魂」を体現するものとされ、ロシア国内では今でも高い評価を受けています。

② ソビエトのプロパガンダ映画としての側面

スターリン政権下では、多くの映画が政治的意図を持って制作されました。本作もその例に漏れず、当時の国際情勢に対応する形で、愛国心を鼓舞するために利用されました。しかし、映画としての芸術的価値は極めて高く、政治的な背景を超えて映画史に残る名作となっています。

③ 音楽と映像の融合

セルゲイ・プロコフィエフが手掛けた本作の音楽は、映画音楽史においても特筆すべきものです。特に、戦闘シーンと音楽のシンクロは、後の映画音楽の手法にも大きな影響を与えました。プロコフィエフは、このスコアを後に「カンタータ《アレクサンドル・ネフスキー》」として再編成し、コンサートでも演奏されるようになりました。

マルセル
マルセル

『アレクサンドル・ネフスキー』は、単なる歴史映画ではなく、映像と音楽が融合した壮大な叙事詩です。エイゼンシュテインの映像美、プロコフィエフの音楽、そしてネフスキーという英雄の物語が見事に融合し、観る者を13世紀の戦場へと引き込みます。

ストーリー概要

『アレクサンドル・ネフスキー』は、13世紀のロシアを舞台に、西方からの侵略者であるドイツ騎士団に立ち向かう若き英雄、アレクサンドル・ネフスキーの戦いを描いた壮大な歴史ドラマです。本作のクライマックス「氷上の戦い」は、映画史に残る名場面の一つとして今なお語り継がれています。

主要なテーマと探求される問題

① 祖国防衛と愛国心

ネフスキーは、ロシアの独立を守るために、都市国家ノヴゴロドの民衆を率いて侵略者と戦います。彼の戦いは、単なる領土争いではなく、ロシアという国そのものを守るための闘争であり、愛国心を象徴するものとなっています。

② 民衆とリーダーの関係

本作では、王侯貴族ではなく、民衆が自発的に戦いに参加する姿が強調されています。これは、指導者と民衆が一体となって戦うことの重要性を示すと同時に、スターリン時代のソ連の「団結した労働者国家」という理想を反映しています。

③ 善と悪の明確な対立

ネフスキー率いるロシア軍と、ドイツ騎士団は完全な対比で描かれています。ネフスキーは勇敢で民衆に寄り添う指導者であるのに対し、ドイツ騎士団は無慈悲で冷酷な侵略者として描かれます。

ストーリーの概要

① ドイツ騎士団の侵攻とロシアの危機

物語は、ドイツ騎士団がロシア西部に侵攻し、ノヴゴロドを脅かす場面から始まります。騎士団は民衆を虐殺し、支配を強めようとします。ノヴゴロドの市民は、この危機を打開するため、かつての英雄**アレクサンドル・ネフスキー(ニコライ・チェルカーソフ)**に助けを求めます。

② アレクサンドル・ネフスキーの決断

ネフスキーは一度は戦いから身を引いていましたが、民衆の熱意に押され、再び指導者として立ち上がります。彼は、ノヴゴロドの市民や周辺の農民たちを集め、民兵軍を結成し、騎士団に対抗する準備を進めます。

③ 氷上の戦い(1242年)

映画のクライマックスは、1242年の「ペイプシ湖上の戦い(氷上の戦い)」です。ネフスキー率いるロシア軍は、湖の氷上で騎士団と決戦を繰り広げます。重装備の騎士たちは次第に氷を割り、湖に沈んでいく壮絶な戦闘シーンは、エイゼンシュテインのモンタージュ技法とプロコフィエフの荘厳な音楽が融合した、映画史に残る名場面となっています。

④ 戦いの勝利と英雄の帰還

ネフスキーの策略により、ロシア軍は騎士団を撃破。彼は勝利を収め、民衆に「ロシアの大地を踏む者は、誰であれ斬り捨てよ」という有名な言葉を残します。映画は、彼の勝利と民衆の歓喜のシーンで幕を閉じます。

視聴者が見逃せないシーンやテーマ

① ネフスキーと民衆の団結

ネフスキーが戦いに挑む決意を語るシーンは、彼のカリスマ性と民衆との絆を象徴する重要な場面です。

② 氷上の戦いのリアリズム

  • 騎士たちが氷上で戦い、最後に氷が割れて彼らが沈んでいく場面は、視覚的にも強烈なインパクトを与えます。
  • モンタージュ技法を駆使した戦闘シーンの編集は、戦場の緊迫感を最大限に高めています。

③ プロコフィエフの音楽との融合

  • クライマックスの戦闘シーンでは、音楽が映像と完璧にシンクロし、まるで交響詩のような迫力を生み出しています。
  • 「ロシアの民衆が戦うテーマ」と「騎士団の冷酷なテーマ」が音楽で対比されることで、物語の善悪の構図が明確になります。
マルセル
マルセル

『アレクサンドル・ネフスキー』は、歴史映画でありながら、英雄譚としての魅力も持つ作品です。勇敢な指導者が民衆と共に戦い、国を守るというストーリーは、時代を超えて人々の心を打ちます。

作品の魅力と見どころ

『アレクサンドル・ネフスキー』は、セルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督の映像美学とセルゲイ・プロコフィエフの壮大な音楽が融合した歴史映画の傑作です。本章では、本作の特筆すべき演出や映像美、社会的・文化的テーマ、そして視聴者の心を打つシーンについて詳しく解説していきます。

特筆すべき演出や映像美

① モンタージュ技法の極致

エイゼンシュテインは、映像を切り貼りすることで感情や意味を生み出す「モンタージュ技法」の名手として知られています。本作では、この技法が特に戦闘シーンで効果的に使用されました。

  • 氷上の戦いの緊張感
    • 近接戦のアップ → 騎士の転倒 → 民兵が斬る → 騎士が氷に沈む、といったカットを連続させることで、戦闘の混沌としたダイナミズムを演出。
    • 斬られた騎士の表情をクローズアップすることで、戦いの残酷さを強調。
  • 敵と味方の対比
    • ロシア軍の団結を映す広いカットと、ドイツ騎士団の個々の冷徹な表情を交互に挿入することで、戦いの構図が明確化される。

② キアロスクーロ(明暗対比)を駆使した映像表現

本作は、白黒映画ならではの光と影のコントラストを巧みに利用しています。

  • ネフスキーの英雄的なシルエット
    • 彼が軍を率いる場面では、光が背後から差し込み、彼のシルエットが強調される。
    • これにより、彼がまるで神話の英雄のように映し出される。
  • 騎士団の冷酷なビジュアル
    • 彼らは暗い影に覆われた鎧に身を包み、ほとんど感情を見せない。
    • その無機質な雰囲気が、彼らの非人間的な冷酷さを際立たせる。

③ 氷上の戦いのリアルな演出

本作最大の見せ場である「氷上の戦い」は、映画史上最も象徴的な戦闘シーンの一つです。

  • 騎士たちが重厚な鎧をまといながら氷の上を進軍するシーンは、緊張感に満ちている。
  • やがて、氷が割れ、騎士たちが次々と湖に沈んでいく様子は、視覚的にも衝撃的。
  • 実際の撮影では、氷の上にセットを組み、巧妙なカメラワークと編集で本物の戦闘のように見せている。

社会的・文化的テーマの探求

① 祖国防衛と愛国心の喚起

本作は、ロシアの独立を守るために戦った英雄の物語であり、当時のソビエト連邦が国民に愛国心を植え付ける目的で制作されました。

  • ネフスキーの「ロシアの大地を守れ」という演説 は、観る者の心に響く愛国的なメッセージとして機能する。
  • 民衆と軍の一体感 を強調することで、「ロシアの民は団結して外敵に立ち向かうべきだ」というテーマが伝わる。

② 善と悪の明確な対比

  • ネフスキーとロシア軍は、民衆と共に戦う正義の存在として描かれる。
  • 一方、ドイツ騎士団は冷酷で非人道的な侵略者として強調されている。
  • これは、当時のナチス・ドイツを敵視するソ連の政治的メッセージとも重なる。

③ 民衆の力の重要性

ネフスキーは単なる支配者ではなく、民衆と共に戦う指導者として描かれています。彼が戦いに向かう際、農民たちが武器を取り、共に戦う場面は、ソビエトの「労働者と兵士の団結」というプロパガンダ的要素を色濃く反映しています。

視聴者の心を打つシーンやテーマ

① アレクサンドル・ネフスキーの名演説

戦いに向けて民衆を鼓舞するネフスキーの演説は、映画の中でも特に印象的な場面です。

  • 「ロシアの大地を踏む者は、誰であれ斬り捨てよ」というセリフは、本作の象徴的な言葉として記憶されている。
  • 彼の力強い声とカメラワークが相まって、観る者の心を掴む。

② 氷上の戦いの圧倒的迫力

  • 騎士たちが氷の上を行進する場面の緊張感。
  • 氷が割れ、騎士たちが次々と湖に沈んでいく映像の美しさと恐ろしさ。
  • プロコフィエフの音楽が戦闘の激しさをさらに高める。

③ 勝利後の民衆の歓喜

戦いの後、ネフスキーが勝利を宣言し、民衆が彼を讃えるシーンは、映画のクライマックスとして完璧な締めくくりとなっています。

マルセル
マルセル

『アレクサンドル・ネフスキー』は、単なる戦争映画ではなく、映像美、音楽、歴史的背景が見事に融合した壮大な叙事詩です。エイゼンシュテインのモンタージュ技法とプロコフィエフのドラマティックなスコアが生み出す映像体験は、まさに芸術の域に達しています。

視聴におすすめのタイミング

『アレクサンドル・ネフスキー』は、映像美と歴史的ドラマが融合した壮大な作品です。そのため、じっくりと向き合える環境で鑑賞することで、より深い感動を得ることができます。本章では、映画を観るのに最適なタイミングや、視聴をより楽しむためのポイントをご紹介します。

このような時におすすめ

タイミング理由
壮大な歴史ドラマに浸りたい時13世紀のロシアを舞台にした英雄譚が、歴史のロマンを感じさせてくれます。
戦争映画の名作を鑑賞したい時氷上の戦いをはじめ、戦闘シーンの演出は戦争映画史に残る名場面の連続です。
芸術的な映像美を味わいたい時エイゼンシュテイン監督の独特な構図とモンタージュ技法が生み出す画面の美しさを堪能できます。
音楽と映像の融合を楽しみたい時セルゲイ・プロコフィエフの荘厳なスコアと映像がシンクロする瞬間に、圧倒的な没入感を味わえます。
現代の政治や歴史を考えたい時侵略に立ち向かうネフスキーの姿は、今日の国際情勢にも通じるテーマを投げかけます。

視聴する際の心構えや準備

心構え準備するもの
歴史的背景を把握する13世紀のロシアの状況や、ドイツ騎士団の侵攻について簡単に調べておくと、映画の理解が深まります。
静かな環境で集中して観るセリフや音楽、映像の細かい演出を味わうために、できるだけ雑音の少ない場所で視聴するのが理想的です。
プロコフィエフの音楽に耳を傾ける戦闘シーンだけでなく、民衆の歓喜や悲しみを表現する音楽にも注目すると、映画の感情的な深みを楽しめます。
モンタージュ技法に注目する戦闘シーンのカット割りやカメラワークに注目すると、エイゼンシュテインの映像表現の妙技がより楽しめます。
長時間の集中が必要一気に観るのが難しい場合は、前半と後半で区切って鑑賞するのもおすすめです。
マルセル
マルセル

『アレクサンドル・ネフスキー』は、ただの歴史映画ではなく、映像と音楽が一体となった壮大な叙事詩です。英雄の物語として楽しむこともできますし、ソビエト時代のプロパガンダ映画としての側面を考察しながら観ることもできます。

作品の裏話やトリビア

『アレクサンドル・ネフスキー』は、セルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督の映像美学とプロパガンダ映画としての側面が融合した歴史映画の傑作です。その制作過程には数々の興味深い逸話があり、また映画をより深く楽しむための視点が隠されています。本章では、作品の裏話やトリビアを掘り下げていきます。

制作の背景

① エイゼンシュテインの復権とスターリンの支持

セルゲイ・M・エイゼンシュテインは、『戦艦ポチョムキン』(1925)や『十月』(1927)で名声を確立したものの、1930年代にハリウッドへ渡った後、ソ連国内での立場を危うくしていました。彼の実験的な映画手法や西洋文化への興味が、スターリン政権の方針と対立したためです。

しかし、1938年に『アレクサンドル・ネフスキー』の制作を指示されたことで、彼はソ連映画界に復帰しました。本作は、ナチス・ドイツとの関係悪化を背景に制作されたため、スターリンの支持を得ており、エイゼンシュテインの地位を回復させる重要な作品となりました。映画は完成後、スターリン賞を受賞し、エイゼンシュテインは再びソ連映画界の第一線に返り咲きました。

② プロコフィエフとのコラボレーション

本作の音楽を担当したセルゲイ・プロコフィエフは、エイゼンシュテインと初めて本格的にコラボレーションした作曲家でした。エイゼンシュテインは、映像と音楽が完全にシンクロする映画を作ることを目指しており、プロコフィエフと密接に協力しながら音楽を制作しました。

  • 音楽と映像の融合
    • 例えば、「氷上の戦い」のシーンでは、プロコフィエフの音楽が戦闘のリズムや緊張感を最大限に高めています。
    • 映像が完成する前にプロコフィエフが作曲し、それに合わせて編集が行われるという、当時としては画期的な手法が取られました。
  • カンタータ版の発表
    • プロコフィエフは映画のスコアを元に、オーケストラと合唱のためのカンタータ《アレクサンドル・ネフスキー》を作曲しました。これは映画音楽が単独の音楽作品としても成功を収めた稀な例であり、現在でもクラシック音楽のコンサートで演奏されることがあります。

出演者のエピソード

① ニコライ・チェルカーソフの熱演

アレクサンドル・ネフスキー役を演じたニコライ・チェルカーソフは、後に『イワン雷帝』(1944)でも主演を務めることになるソビエト映画界の名優です。彼の堂々とした立ち姿や力強い演説は、ネフスキーという英雄像を完璧に体現しました。

しかし、撮影中にはいくつかの困難もありました。

  • 戦闘シーンでは実際の重い鎧を着用していたため、動きづらく過酷な撮影となった。
  • 氷上の戦いのシーンでは、彼自身も何度か転倒するハプニングがあったが、迫力のある映像を求めるエイゼンシュテインの要求に応え、何度も撮り直した。

② ドイツ騎士団の「ナチス風デザイン」

ドイツ騎士団のビジュアルデザインは、当時のナチス・ドイツを意識して制作されました。

  • 兜のデザインは、ナチスの親衛隊(SS)の制服を連想させる形状に。
  • 騎士たちの冷酷な表情や機械的な動きは、ファシズムの象徴として描かれた。

これは、1938年の公開時に反ナチス的なプロパガンダ映画としての役割を果たすための演出でした。

視聴者が見落としがちなポイント

① ネフスキーの「英雄像」の演出

エイゼンシュテインは、ネフスキーを単なる戦士ではなく、指導者としての威厳を持った存在として描いています。

  • 彼の登場シーンでは、広大な背景とともに映し出され、まるで歴史画のような構図が取られている。
  • 彼が演説をするシーンでは、カメラが低い位置から彼を映し、威厳を強調するアングルが採用されている。

② 宗教的シンボリズム

  • ロシア正教の影響を受けたビジュアルが随所に見られる。
  • ネフスキーが聖像を前にして戦いに臨むシーンは、彼が「神に選ばれた指導者」であることを示唆している。

③ 「氷上の戦い」のリアルな撮影技術

  • 騎士たちが氷の上を歩くシーンは、実際には氷の下に木製の支えを作り、安全に撮影されていた。
  • 氷が割れるシーンは、氷のブロックを事前に薄く加工し、俳優たちが安全に沈むよう工夫されていた。
マルセル
マルセル

『アレクサンドル・ネフスキー』は、単なる歴史映画ではなく、政治、芸術、映画技術が見事に融合した作品です。エイゼンシュテインの完璧主義、プロコフィエフの音楽、そしてソビエト時代の背景を知ることで、より深い視点で楽しむことができるでしょう。

締めくくりに

『アレクサンドル・ネフスキー』は、映画史に燦然と輝く歴史映画の傑作であり、芸術性とプロパガンダ性が融合した、まさにソビエト映画の象徴とも言える作品です。セルゲイ・M・エイゼンシュテインの映像美、セルゲイ・プロコフィエフの壮麗な音楽、そしてロシアの英雄譚が見事に調和し、観る者に深い感動を与えます。

13世紀のロシアを舞台に、アレクサンドル・ネフスキーが祖国を守るために戦う姿は、単なる歴史的出来事の再現ではなく、時代を超えた「愛国心」「団結」「正義の勝利」という普遍的なテーマを描き出しています。本作が制作された1938年当時、ソビエト連邦がナチス・ドイツとの緊張関係にあったことを考えると、その政治的意図は明らかですが、それを超えて映画芸術としての価値を持ち続けている点が、本作の偉大さを物語っています。

映画から学べること

① 権力とリーダーシップの本質

ネフスキーは、単なる戦士ではなく、民衆を導く指導者として描かれています。彼のリーダーシップは、戦略的な決断だけでなく、民衆の心を動かすカリスマ性にも支えられています。この点は、現代の政治や社会のリーダー像にも通じるものがあります。

② 愛国心と国家の団結

ロシアの独立を守るために民衆が団結し、戦う姿は、ソビエト連邦の「労働者と農民の団結」というイデオロギーと重なります。映画の背景にある政治的メッセージを理解しながら観ることで、より深い洞察を得ることができます。

③ 映像と音楽の完璧な融合

エイゼンシュテインの映像美とプロコフィエフの音楽がシンクロし、まるで交響詩のような映画体験を生み出しています。この手法は、後の映画音楽の在り方にも大きな影響を与えました。

視聴体験の価値

本作は、単なる戦争映画ではなく、視覚と聴覚の芸術が融合した壮大な叙事詩です。

  • 映画史的価値:モンタージュ技法の発展、映画音楽の革新
  • 文化的価値:ロシア史の英雄譚、愛国心を鼓舞する物語
  • 政治的価値:ソビエト時代のプロパガンダ映画としての側面

これらの要素を意識しながら観ることで、一層の深みを持った映画体験ができるでしょう。

最後に

親愛なる映画ファンの皆様、『アレクサンドル・ネフスキー』鑑賞ガイドを最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この映画は、歴史の重厚さ、映像美の荘厳さ、音楽の壮大さが一体となった、まさに熟成されたヴィンテージワインのような作品です。初見では圧倒されるかもしれませんが、繰り返し観ることで、その奥深さをより一層感じることができるでしょう。

ぜひ、英雄ネフスキーの気高い精神を感じながら、この歴史絵巻を堪能してください。そして、次回の映画鑑賞ガイドでまたお会いしましょう。それまで、素晴らしい映画体験をお楽しみください!

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